笠碁
私にとって、金原亭馬生といえば、「笠碁」である。
むかし、テレビで馬生の「笠碁」を見て、感動してしまった。もちろん、リアルタイムの映像ではなく、ずっと前の映像である。
かけがえのない友人どうしが、片方の家で囲碁の勝負をする。
「待ったなし」というルールを決めるが、このルールを決めたことにより、囲碁の勝負で2人は大げんかをする。
「おまえなんかと二度と会うもんか!」と、2人は絶交する。
しかし2人は、お互いのことが気になって仕方がない。
何かをきっかけに、2人は仲直りしたいと思っている。
唯一の頼みの綱は、1人が、もう1人の家に忘れていった「タバコ入れ」である。
タバコ入れを忘れてきた方は、それを取りに行く、という名目で、その友人の家に行くことを思い立つ。
もう一方は、「きっとこのタバコ入れを取りにあいつは来るだろう」と、家の軒先に碁盤を置いて、今か今かと彼が来るのを待っている。
雨の降る日。例によってタバコ入れを忘れた友人を待ち焦がれるあまり、外を眺めていると、古笠をかぶった友人がやってくる。
「やっぱり来た!」
しかし、古笠をかぶった男は、照れくさくて、家の前を行ったり来たりして、なかなか家に入ろうとしない。
「なんだあいつ!うちに入ってこないのか!オレは二度とあいつとはつきあわねえ!」
自分の気持ちを翻弄する友人に対して、自分勝手にいらだつのである。
しかし、思い切って声をかけると、そこで堰を切ったように仲直りをする。
「囲碁の勝負をしよう。今度は、待ったなしなんてくだらないことはやめよう。あれ、碁盤のところにだけ雨が漏ってるなあ。雨漏りか?…いや、お前さん、笠被ったまんまだ」
これがサゲ。
地味だが、これほど、友情の機微を鮮やかに描いている噺はない。馬生はこれを、見事に演じている。
私は馬生の「笠碁」が、大好きである。
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