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江華島の支石墓

2月26日(水)

前の職場の同僚、OQさんは毎年、ゼミ旅行で学生を韓国に連れて行っていたが、私がそのゼミ旅行についていった最初の年が、2001年の夏だった。

そのときは、江華島(カンファド)という、ソウルの北にある島に行った。

OQさんがどこで話をつけてきたのか、運転手さんと小型バスを1日借り切って、広くて見所の多い江華島を1日かけてまわることにしたのである。

江華島に、マニ山(さん)という山があるのだが、「頂上まで登ろう」ということになった。

最初は軽い気持ちで登りはじめたのだが、この山が思いのほか、キツイのである。おまけに真夏である。

まだ30代初めの私ですら、あまりのキツさに、頂上に行くのをあきらめてしまったほどである。

(これじゃあまるで登山だよ…)

OQさんと何人かの学生たちは、頂上まで登って、戻ってきた。

だがこの登山に予想以上の時間をとられてしまったため、世界遺産に指定されている「江華島の支石墓」をまわる時間がなくなってしまった。

「支石墓」とは、大きな石で作った昔のお墓のことである。朝鮮半島の古い時代に特徴的なお墓ともいわれている。

「残念ですねえ。見たかったのに…」と、帰りの車の中で、私はつぶやいた。

今から思うと、せっかくの世界遺産だから見ておきたかった、というていどの気持ちだったのだが、「江華島の支石墓」を見に行けなかったことによっぽど悔しい思いをしていたと、OQさんの目には映ったらしい。

それから4年ほどが経った、2005年の夏のことである。

2002年9月に私の職場は変わったが、OQさんは依然として私を韓国ゼミ旅行に誘ってくれて、2003年の2度目に続き、この年は3度目の珍道中と相成った。結果的にはこれが、最後のゼミ旅行になってしまった。

このときに訪れたのは、韓国と北朝鮮の国境近くにあるオドゥサン統一展望台という場所だった。

Photo_2 ハンガン(漢江)とイムジン河の合流地点につくられたこの展望台からは、北朝鮮の農村地帯を遙かに眺めることができた。

統一展望台での見学が終わり、今度は車で、別の場所に向かう。

どこに行くんだろう?と思っていると、何だかよくわからない場所に着いて、そこから小高い山を登っていった。

(どこへ連れて行かれるんだろう?)

と思ってついていくと、うっそうとした茂みの中に、囲いがあって、その中に、さほど大きくない石がいくつか置いてあった。

説明版を見ると、「支石墓」と書いてある。

2 「支石墓ですよ、Mさん」OQさんは言った。「これが見たかったんでしょう?」

そうだったのか…。

私に支石墓を見せるために、わざわざこの山を登ったのか…。

つきあわされた学生たちは、何がなんだかわからない。なにしろ、小高い山を登って、茂みの中に置いてある石を見に来たのだから。

OQさんは、世界遺産である「江華島の支石墓」に行けずに残念がっていた私のことを、ずっと覚えていたのだ。

それでその代わりに、この近くにある支石墓の場所をあらかじめ調べておいて、私を連れてきたのだ。

しかしそこは、世界遺産でも何でもない、ふつうの場所である。しかも、イメージしていたものよりも、かなり小さい。

(それほど見たかったわけではないんですよ…)

とは、口が裂けても言えなかった。

なぜなら、このわけのわからない場所に、学生たちもつきあわされたからである。

そんなことなどおかまいなしに、私に支石墓を見せてあげようという、ただその1点だけで、わざわざ調べて、見学先の1つに含めてくれたOQさんに、私は感謝した。

山を下りる途中、「今のお墓」があった。

韓国の伝統的なお墓は、土饅頭の形をしていて、山の中腹に作ることが多い。

「せっかくだから拝礼していこう」

Photo_3 OQさんは、縁もゆかりもないそのお墓に、韓国式の拝礼をした。

学生たちには、ますます何のことかわからなかっただろう。

私にとっては、支石墓よりも、見ず知らずのお墓に拝礼するOQさんの姿の方が、後々まで記憶に残った。

結局、OQさんと一緒に、江華島の支石墓を見に行く機会は、永遠に失われてしまった。

その後、江華島の支石墓を見る機会はあったかって?

それから私は韓国に留学し、留学中に一度だけ、江華島に遊びに行ったことがある。2009年8月のことである。

これが、「江華島の支石墓」です。

Photo

ちゃんと見に行きましたよ。

これでOQさんも、もう支石墓のことは気にかけなくてもいいでしょう?

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コメント

いやー、支石墓ちっちゃいねえ(笑)。

何とか事典に載っていた白黒の「支石墓」の写真を見せられて「ここに行くんだ」と言ってた時は、柵で囲われてもなくて、俯瞰で撮影されていたものだから、石舞台古墳みたいに大きいシロモノだと思ってたんじゃないかと。

投稿: こぶぎ | 2014年2月27日 (木) 12時58分

私も、久しぶりにあの時の支石墓の写真を引っ張り出してみて、「こんなにちっちゃかったっけ?」って、大笑いしました。世界遺産の支石墓とは、ずいぶん違いますな。

投稿: onigawaragonzou | 2014年2月27日 (木) 23時40分

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