馬生と志ん朝
馬生と志ん朝は兄弟。馬生が兄で、志ん朝が弟。ともに5代目志ん生の息子である。
馬生の娘が池波志乃である。
むかしむかし、フジテレビの昼のドラマで「おりんさん」(1983年)というのがあって、志ん生と妻のおりんの半生を描いた物語だったのだが、私はこのドラマがとても好きだった。といっても、ストーリーは全然記憶にない。
志ん生を演じたのは中村嘉葎雄、この志ん生は、絶品だった!
これ以来、志ん生といえば中村嘉葎雄、中村嘉葎雄といえば志ん生、というイメージが、すっかり私の中で定着してしまった。
妻のおりんを演じたのは、志ん生の孫であり、馬生の娘である、池波志乃である。
そしてなんと、ナレーションが古今亭志ん朝!つまり志ん生の次男である。
今から考えると、何と贅沢な昼ドラマなんだろう。ソフト化されていないのが残念でならない。
さて、馬生と志ん朝である。
一般に、志ん朝は、誰もが認める名人とされる。
兄の馬生は、弟の志ん朝ほどには、有名でない。
54歳という若さでなくなってしまったことも、その原因の1つかもしれない。
長生きすれば、名人といわれる存在になっただろう、と、人はいうが、しかし長生きしたとしてもやはり、人は志ん朝のほうを評価するだろう。
飛ぶ鳥を落とす勢いの志ん朝と、マイペースな馬生。
私はどちらかといえば、馬生のほうが好きである。
たとえば、「文七元結(ぶんしちもっとい)」
私が最も好きな人情噺である。
志ん朝の「文七元結」は歯切れが良く、完璧である。
だが、私は、馬生の「文七元結」の方に、笑い泣きしてしまう。
最後のほうに出てくるセリフ。
「ときに、酒だけでは何でございますので、酒の肴を…」
「酒の肴なんかいらねえ。指しゃぶったって1升くらい飲んじゃうんだから」
このセリフが、可笑しくてたまらない。
志ん朝はここを、
「あっしはねえ、味噌舐めたって5合くらい引っかけちゃうんだ」
としている。ここは、「味噌舐めたって」より、「指しゃぶったって」の方が、そこはかとなく可笑しい。
最後の最後。
お金がないためにボロをまとって、人前に出られない格好をしている長兵衛の妻が、娘のおひさに「おっかさん!」と呼ばれて、人目もはばからず屏風の影から飛び出していく場面。
これも、馬生の語り口のほうが「泣き笑い」を誘うように思う。
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