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本当の人間の生活

スポーツ観戦で家族団らん、と書いて思いだした。

毎度毎度恐縮だが、映画「男はつらいよ 寅次郎恋歌」での一場面。

寅次郎の義弟(つまりさくらの夫)である博の母が亡くなり、岡山の実家で葬式が営まれる。

寅次郎は、1人残された博の父・瓢一郎(志村喬)を慰めようと、葬式のあと、その家にしばらく滞在することにした。

瓢一郎は、定年まで大学教授をつとめ、学問一筋でほかを顧みない人だったようである。

ある夜、その瓢一郎が、風来坊の寅次郎に、寅次郎を戒める意味で、ぽつりぽつりと、話しかける。

それは同時に、学問のために多くのものを犠牲にしてきた瓢一郎の、深い反省の言葉のようにも聞こえる。

印象的なセリフなので、書きとめておいた。本来は、志村喬の語りで聞くべきせりふである。

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「そう、あれはもう、昔のことだがね。

私は信州の安曇野(あずみの)というところに旅をしたんだ。

バスに乗り遅れて、田舎道をひとりで歩いているうちに、日が暮れちまってね。

暗い夜道を心細く歩いていると、ぽつんと、一軒家の農家が建っているんだ。

りんどうの花が、庭いっぱいに咲いていてね。

開けっ放した縁側から、明かりのついた茶の間で家族が食事をしているのが見える。

まだ食事に来ない子供がいるんだろう。母親が大きな声でその子供の名前を呼ぶのが聞こえる。

…私はね、今でもその情景を、ありありと思い出すことができる。

庭一面に咲いたりんどうの花。

明々と明かりのついた茶の間。

にぎやかに食事をする家族たち。

….私はそのとき、それが、それが本当の人間の生活ってもんじゃないかと、

ふっとそう思ったら、急に涙が出てきちゃってね。

…人間は絶対にひとりじゃ生きていけない。

逆らっちゃいかん。

人間は人間の運命に逆らっちゃいかん。

そこに早く気がつかないと、不幸な一生を送ることになる。

わかるね、寅次郎君。わかるね」

「へえ、わかります。よくわかります」

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