誰にも理解されない主張
サッカーJリーグのサポーターによる、差別横断幕事件。
当初は、ほとんど報道されていなかった。
しかし、次第に事の重大さに気づいたのか、Jリーグ側が、チームに重い制裁を科し、ようやく報道されるようになった。
このときの経緯を、TBSラジオ「荻上チキ セッション22」のポッドキャストで聴いたのだが、これがメチャクチャ興味深い。
この差別横断幕を競技場の観客席で見つけて、「これはまずい」と思ったのは、同じサッカーチームの熱烈なサポーターだった、Uさんだった。当日の放送では、このUさんも出演して、そのときの様子を事細かに話している。
それによると、サッカー観戦をしようと競技場に入ったUさんは、この差別横断幕を見て、「これはまずい」と思い、すぐに、しかるべき手続きを経て、クラブ(サッカーチーム)に、
「あの横断幕は、差別的表現を含んでいるので、ただちに取り外すべきだ」
と申し入れをした。
ところが、結局試合の最後まで、この差別横断幕は取り外されることはなかった。
チームを率いるクラブ側が、横断幕を掲げたサポーター側に配慮した、ということらしい。
サッカーチームは、サポーターの支援があってのものだからである。
つまりは、「なるべく事を荒立てないように」ということのようだった。
しかし、これをこのまま放置しておくと、さらに大きな問題に発展しかねませんよ、と、Uさんは再三言ったのだが、クラブ側は、その場を穏便に済ませようとしたのである。
だが最終的には、問題はかなり大きくなり、チームの受けた傷は、より深いものとなってしまった。
このラジオを聴いていて、すげえなあ、と思ったのは、この差別横断幕をただちに問題視し、正当な手続きでクラブ側にその場で申し入れをした、Uさんである。
これほど適切で、毅然とした行動は、なかなかできない。
さらに驚いたのは、Uさんが、このときの放送で、じつに理路整然と、冷静に、この問題について論じていたことである。
このUさんの素性は、サッカーチームの熱烈なサポーターというだけで、とくに明かされているわけではなかったが、じつに弁が立つ、というか、ラジオ慣れしている、というか、とにかく、私なんかよりも、はるかに冷静で理知的なのである。
何者なんだ?この人は。
何よりすばらしいのは、サッカーチームのサポーターによる不祥事を、同じチームのサポーターが毅然とした姿勢で、臆することなく、正当な手続きで、問題を明るみにしたことである。
それに対してクラブ側がとった行動は、当初は、「事なかれ主義」に徹する、というものであった。
そればかりか、よかれと思って申し入れをしたUさんのことを、当初は「クレーマー」の1人として対応していたのである。
「ある問題が起こったとき、どのように対処するか?」
差別横断幕事件は、その、見本のような事件である。
誤解を恐れずにいえば、教材にしてもいいくらいの事件である。
「この事件の、何が問題なのか?」
「こうした事件が起こったとき、周りの人たちはどのような姿勢でのぞめばよいのか?」
これに答えられることが、社会人になるための、第一歩なのではないだろうか。
…ま、そうは言っても、私の周りで理解してくれる人なんて誰もいないだろうな。
ところで、私こそ、差別のかたまりのような人間であることを、この事件を通じて痛感した。
私はこの事件が起こったとき、
「サッカーチームのサポーターなんて、やっぱりろくなもんじゃねえ。きっと、こういう連中ばっかりなんだ」
と思ってしまった。
だが、この問題を誰よりも深刻に受けとめ、解決に導いたのも、実は、サポーターだったのである。
「オレは、サポーターを、十把一絡げに見てしまっていた」
と、自分の中にある強い差別意識に、深く反省したのであった。
最後にくり返していう。
この事件は、教材にすべきである。
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