ちぐはぐロードムービー
3月28日(金)
14年間住んでいた土地を、離れることになった。
3月のあいだ、大変な思いをして引っ越し作業が終わり、最終日の今日は、仕事部屋と自宅にあったこまごまとした荷物を、自家用車に積んで、いよいよ完全退去である。
ところがこれに、思いのほか時間がかかった。
朝、仕事部屋に残った最後の荷物を自家用車に積む作業をしていたら、あっという間に10時になってしまった。
最後、事務室に挨拶に行こうとすると、事務室も、引っ越し作業に追われていた。耐震工事が終わり、もとの部屋にもどるため、職員さんたちが総出で荷物を運んでいる。
お前のことなんかかまってられるか!という雰囲気だったので、挨拶もせずに廊下に出ると、昨日感動的な別れのあいさつを交わした同僚とすれ違う。
「まだいたんですよ、てへへ」
と自嘲気味に挨拶したが、なんともバツが悪い。
今度は自宅に戻り、自宅に残ったこまごまとした荷物を自家用車に積んだ。
そうこうしているうちに、11時半になってしまった。
ようやく出発である。自家用車による400㎞の旅が始まる。
しかしその途中で、立ち寄りたい場所があった。
まず向かった先は、「同い年の盟友Uさん」のいる職場である。
この職場には、これまでいろいろとお世話になったこともあり、挨拶をしてから旅立とうと思ったのである。
アポなしで行くと、Uさんがいた。
「なんだよ~。タイミング悪いなあ」
「どうしたんです?」
「今日、おおかたの人が出はらっちゃって、職場にいないんだ」
なんともタイミングが悪い。
だが、Uさんは職場の中をひとまわりしてくれて、ひととおり、挨拶の機会を与えてくれた。
お世話になったTさんやMさんとも会うことができた。
「こういうときって、手を振るもんなんだよな」
UさんとMさんに玄関で見送られながら、私の車はその職場をあとにした。
次に向かった先は、「前の職場」である。
アポなしで行って誰もいなかったらどうしよう、と急に不安になって、Kさんに電話をした。
「これからうかがおうと思うんですが、職場にいらっしゃいますか?」
「ええ、僕はいるんですけど、タイミング悪いなあ」
「どうしたんです?」
「僕以外は誰もいませんよ」
「こぶぎさんもですか?」
「ええ」
またか!どうにもタイミングが悪い。
「前の職場」に到着し、Kさんの仕事部屋に行って四方山話をする。
Kさんの部屋を出ると、廊下をたまたま通りかかった「同期入社」のUさんと、10年ぶりくらいに話をした。
Uさん、全然変わってないなあ。
気がつくと、午後3時半である。
「いかん!今日中に帰らないと」
「もういっそのこと、温泉に泊まったらどうです?で、3日くらいかけてたどり着くとか」
「そんな悠長なこと言ってられません!」
慌てて「前の職場」を出て、国道を東に向かって、峠越えをする。
この峠を越えると、県境である。
山を下り、隣県の町に入ると、そこから東北道に入り、あとはひたすら南下する。
そういえば思い出した。
私によく「雲をつかむような話」をする同僚が、先日、こんな話をしてくれた。
「東北道のサービスエリア(SA)に、すごく美味しい食べ物があるんです」
「そうですか」
「東北道を通るとき、必ずそのSAに立ち寄って、それを食べるんですよ」
「そんなに美味しいんですか?」
「ええ。絶対にオススメです」
「へえ、それって、何です?」
「さあ、それがよく覚えていないんです」
「はぁ?」
話の様子だと、どうも洋菓子のようなものである、らしい。
「SAの場所も、商品名も、わからないんです」
どういうこっちゃ???
美味しい、という記憶だけはあるのだが、それがどこにある、どういうものだか、まったくわからない、というのだ。
「上り線にあるのか、下り線にあるのかも、わかりません」
記憶喪失か!?
「わかりました。じゃあ自分で探してみます」
とは言ってみたものの、これこそ、「雲をつかむような話」である。
しかし、全部のSAやパーキングエリア(PA)をしらみつぶしに探すわけにはいかない。そんなことをしていたら、今日中に目的地にたどり着けなくなる。
あたりをつけて、大きいSAに立ち寄ったついでに探すことにするが、どうも「洋菓子風の美味しいもの」に該当しそうなものは見当たらない。
そのことに気をとられているうちに、重大なミスを犯した。
「ああああぁぁぁ!!!」
以前、こぶぎさんにすすめられた、「鬼平犯科帳」の世界を再現したというPAを、うっかり通り過ぎてしまったのだ!
「美味しい食べ物」は見つからないし、行こうと思っていたPAは通り過ぎてしまうし、まったく、今日はなんとちぐはぐな日だろう。
もとはといえば翻弄される私のほうが悪いのだ。だが翻弄されるのは、嫌いではない。
そんなこんなで、目的地に着いたのが夜10時半。出発から、じつに11時間が経っていた。
出発当初は、「お世話になった場所を訪れ、別れを告げながら目的地に向かう感動的なロードムービー」を期待していたのだが、全然そんな感じにはならなかった。
実際の人生なんて、こんなものである。
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