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好きな本は二度買う

好きな小説を本のリサイクルショップで見かけると、何度も買う、という癖がある。

あるいは、好きな小説が新装版で出ると、買い直したりすることがある。

その第一は松本清張である。

文庫版で持っていたものを、全集版で買い直すとか、最近では、韓国で出版されている「韓国語版」を買ったりする。

だからモノが増えるのだ、といわれればそれまでである。

福永武彦『廃市・飛ぶ男』(新潮文庫)とか、『風のかたみ』(同)なども、最近はなかなか市場に出回っていないだけに、本のリサイクルショップで見かけると、つい、買ってしまう。

カズオ・イシグロの『日の名残り』もそうだった。

数年前、ハヤカワ文庫版で出たのをつい買ってしまったが、その前の中公文庫版を、当然ながら持っていたのだった。訳者は同じなので、出版社と装丁が変わっただけなのである。

『日の名残り』は、小説ではなく、映画から入ったクチである。1993年公開というから、今から20年前の映画である。私は20代半ばのころ、劇場で見たのである。

謹厳な執事・スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)は、厳格なまでにプロ意識をもって執事の職務を遂行する。使用人同士の恋愛が禁じられている執事の世界で、彼は女中頭であるミス・ケントン(エマ・トンプソン)に深い友情を感じながらも、それを決して表に出すことなく、職務に忠実な執事であり続けるのである。

やがて時が過ぎ、長らく仕えていた主人が没落し、新しい主人に仕えるようになったスティーブンスは、結婚して引退したかつての同僚、ケントンのもとを訪ねる。新しい主人の下でもう一度仕事をしようと説得するためである。2人の再会の場面は、スティーブンスとケントンの両者の、決して明かされることのない思いとも相俟って、じつに印象的である。

なんといっても、スティーブンスを演じたアンソニー・ホプキンスがすばらしいのだ。

数年前、海外版の電子書籍用タブレットを入手したとき、真っ先に購入したのが、「日の名残り」の原作版だった。何を考えたのか、日本語訳ではなく、英語で読んでみたい、と思ったのである。

しかしすぐに挫折したことはいうまでもない。

だが、原作は、きっと味わい深い英文であると私は信じている。

死ぬまでには「日の名残り」の原作版を読破したい。

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