「町の自転車屋さん」の幻想
4月6日(日)
引っ越したばかりの町、というのは、えらく住みにくい。
自転車の後ろのタイヤがパンクしたようなので、近くに「町の自転車屋さん」があるかどうか調べてみると、歩いて15分ほどのところにあることがわかり、夕方6時半過ぎ、その自転車屋さんに行った。
自転車屋さんはまだ開いていた。
「すみません。後ろのタイヤがパンクしたみたいなんですけど、見てもらえますか?」
「無理ですねえ」
「え?」
「今日は無理です」
たしかに、夕方遅くに持ってきたこっちも悪い。
「では、預かっていただいて、明日取りに来ますから…」と言いかけると、
「それも無理です」
という。
「うちはスペースが狭くってねえ。ご覧の通り、もういっぱいなんですよ。私一人しかいないもんでねえ」
もう、手一杯、ということらしい。見ると、修理を待つ自転車が何台か並んでいた。
「それに、うちは閉店が7時半なんでね」と、そのお店のおじさんは付け加えた。
まだ、30分以上あるじゃん!と思ったが、そこはぐっとこらえた。
「じゃあ、この近くにどこか他の自転車屋さんはありませんか。私、引っ越して間もないもので、このあたりのことがよくわからなくて…」
「さあ、わからないねえ。国道の方にあったと思うけど、たぶん、うちと同じだと思いますよ」
自分と同じ対応をするだろう、と言いたいらしい。
「じゃあ、○○はどうですか?」
私は、チェーン店の名前をあげた。方角は異なるが、先日、家の近くを車で通ったときに見かけた店である。
「ああ、あそこもうちと同じだと思いますよ。閉店時間も同じだと思いますし」
なしのつぶて、とはこのことである。
悪いのは、こんな時間に自転車を持ってきた俺なのか?
なんとなくあまり良い心持ちがしなくなって、その自転車屋さんをあとにした。
私の実家の前には自転車屋さんがあって、父と幼なじみのゴロウさんがいつも自転車を直してくれていたので、「町の自転車屋さん」には、これまで信仰に近い親しみを感じていたのだが、それが脆くも崩れてしまった。
仕方がないので、踵を返して、チェーン店の店にダメモトで行ってみることにした。夜7時直前に着くと、まだ店は開いていて、中で若い店員さんが自転車の修理をしていた。
玄関のところを見ると、閉店は「7時半」とある。さっきの店と同じだ。
おそるおそる、
「あのう、自転車の後輪がパンクしたみたいなんですけど、…直していただけますか?」
と聞いてみると、
「いいですよ。10分~15分くらいで済みますから。そこへおかけになってお待ちください」
と、その若い店員が答えた。
で、あっという間にパンクが直った。
その親切な対応に、感謝した。
この一部始終を妻に話すと、
「『町の自転車屋さん』が親切だってのは、もう幻想なのかもね。大手チェーン店の方が、今はかえって親切なのかも」
とのコメント。
なるほど、そうかも知れない、と思わせる出来事だった。
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コメント
自転車の後ろのタイヤがパンクしたようなので、街の自転車屋さんに行った。
「すみません。後ろのタイヤがパンクしたみたいなんですけど、見てもらえますか?」
「無理ですねえ」
「え?」
「だってこれ、ロードバイクだろ。
お客さん、パンクは自分で直すものだよ。
クイックリリースレバーがついてるから車輪なんか10秒で外せるし、あとはタイヤレバーでリムからタイヤを外して、中のチューブを新品と交換するだけだ。慣れれば10分~15分くらいで済むから、店の外でやってみたら。俺はその間に別のお客さんのパンク修理してるから。どんどん済ませないと、店の中、パンク自転車ばかりで、お客さんが座る場所もできねえからな」
「交換したチューブも捨てないでな。風呂場の洗面器でブクブクやって、パンク穴の部分にタイヤパッチを貼れば再利用できるから、予備のチューブとして持ってな」
「あとな、スポーツ自転車は、近所の自転車屋さんで買う物だぞ。値段は少し高くても、その後のメンテナンスは部品代だけでやってもらえるし、こうやって色々教えてもらえて、勉強になるぞ。それに自分の店で買った自転車しか整備しない店もあるしな」
「もしかしてお客さん、昔、無理な時間にパンク修理してもらったことに気をよくして、隣の市のチェーン店かなんかでロードバイクを買ったんじゃないよね。そんな遠くの店で買っても、いざ自転車が故障したら、手で押して歩いて行けないから、修理や整備が面倒くさくなって、やがてサイクリング自体から疎遠になっちゃうと思うよ」
投稿: ほぼ5年前のあなたへ(こぶぎ) | 2019年2月 3日 (日) 22時35分