夜と音楽と友と香り
高校2年の文化祭の演奏会で、「黒いジャガーのテーマ」の曲の最後に、バラの花を客席に投げた、という話。
よくよく思い出してみると、「どうかしていた」のは、このときばかりではなかった。
私は高校時代、すげえ「キザ」な人間だったんじゃないだろうか、という疑念が、頭をもたげてきた。
当時、FM東京で放送していた「渡辺貞夫マイ・ディア・ライフ」を毎週欠かさず聞いていたことは、以前にも書いた。
もちろん渡辺貞夫の音楽が好きだったから聞いていたのだが、実はそれだけではなかった。
番組の進行役である小林克也の語りも、大好きだったのだ。
とくに、番組のオープニングの「語り」は、一篇の詩を読むがごとく、とても心地よいものだった。
願わくは、コピーライターとか放送作家になって、こんなふうな原稿を書いて、それを小林克也に読んでもらいたい、と、真剣に思ったものだ。
それが、高校時代の私だった。
「夜には、いろいろな表情があるものだ。
満ち足りた顔。
待ち受けている顔。
不安な顔。
そして、優しい顔。
遠く見渡せるときがあり、
友が浮かぶときがある。
何かを求めて追いかけている夜。
つぎつぎにやってくる思いを、まじまじと見つめている夜。
どこかで、扉が開いた。
輝いた夜には、ふさわしい音楽を、爽やかな香りとともに。
資生堂、ブラバス。
この番組は、東京銀座・資生堂の提供でお送りします。」
「夜。静けさの中で、音楽はたとえようもなく優しかった。
その激しいリズムにも、そのむき出しのやりとりにも、
爽やかな、優しいまなざしがあふれていた。
音楽よ、そして友よ、いつでもわが部屋をノックしたまえ。
君のためにこの部屋を、透き通る爽やかな香りで満たしておくから。
資生堂、ブラバス。
この番組は東京銀座・資生堂の提供でお送りいたします」
オープニングの「語り」は、定期的に変わっていたが、一貫して「夜」「音楽」「友」「香り」というフレーズが入っていたことは、同じである。
今聴くと、すげえキザな語りだなあ。
でもこんな文章を書いてみたいと、高校時代の私は、本気で思っていたのだ。
まったく、どうかしていたね。
でも告白すると、「夜」「音楽」「友」「香り」の4つの言葉を使って、キザな文章を書いてみたい、という気持ちは、今も少しあるのだ。
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コメント
コルトレーンの洒落た音楽が流れる店内。
マホガニー製のカウンター上を、流れ星のようにワンショットグラスがすうっと滑った。
「わたし、注文していませんけど」
マスターは黙って、奥の男を指さした。
「どこかでお会いしませんでしたか」
「いえ、一度も」
「お名前は」
「香ですけど」
「かおり、いい名だ。もう一杯いかがですか」
「結構ですわ、もう時間ですから」
「ずいぶんとお急ぎですね」
「はい、もうすぐTBSラジオ「コサラビの夜は友達」が始まってしまいますし。それに...」
「それに?」
「このワンショットグラスに入ったホタルイカの沖漬け、「お通し」だから私の前にもありますけど」
投稿: ハードボイルドこぶぎ | 2014年4月 8日 (火) 13時39分
こぶぎさん、やっぱあんた、すげーよ。
こっちのフリを逃さず、期待通りのコメントを書いてくれる。
「でも告白すると、「夜」「音楽」「友」「香り」の4つの言葉を使って、キザな文章を書いてみたい、という気持ちは、今も少しあるのだ」
というのは、明らかにこれ、フリですからね。
つまり、「夜」「音楽」「友」「香り」の四つの言葉を使った「四題噺」を作れ、というフリです。
その意図がわかり、ちからわざでネタを仕上げたこぶぎさんに完敗、いや、乾杯です。
かんぱ~い!
…あれ?ワンショットグラスで乾杯したはずなのに、中にホタルイカの沖漬けが入っているぞ!
投稿: onigawaragonzou | 2014年4月 9日 (水) 00時49分