散髪放浪記
4月10日(木)
新しい土地に移り住んで、最も困ることと言えば?
そう!散髪屋さんを選ぶことである!
韓国に留学中、はじめて散髪屋に行ったときには、本当に困った。
「どのようになさいますか?」
という質問に、韓国語でどう答えていいのかわからない。
何回か通ってみてようやく、
「整えてください」
とひとことで答えればよいのだ、ということがわかったのである。
それから後は、散髪屋に行くことも苦にならなかった。
それはともかく。
仕事帰りに、散髪をしようと思って、自宅の最寄りの駅の周りを探してみたが、駅の近くに軒を連ねているお店は、オサレな美容院しかない。
オサレ過ぎて、とても入ることができない。
私の選ぶ散髪屋の条件。
オサレ過ぎる店はダメ。
といって、パンチパーマのオヤジがくわえタバコをしながら店を一人で切り盛りしているような店。
これもダメ。
自分もパンチパーマにされそうで、怖い。
店は、古びた小さな構えより、清潔で広い構えの方がよい。
道具も新しい方がよい。美容院を少し意識した理容店、というスタンスのお店がよい。
散髪用の椅子は、2つ以上はあった方がよい。
ベテランの夫婦が散髪屋を切り盛りしているが、ベテランのオヤジは、半分隠居していて、ベテランのオヤジに鍛えられた若くて腕のいい店員が1人いて、実際にはその店員がお店を支えている。
若い店員は、必要以上に話しかけず、どちらかといえばおとなしい方がよい。
そう!ちょうど、韓国映画「大統領の理髪師」に出てくる散髪屋さんのようなお店だ。
実際、先月まで通っていた散髪屋さんは、そんな感じのお店だった。
店の主人は、けっこういい年齢で、昔からの常連さんしか担当しなかった。
店には1人、腕のいい若い店員がいて、余計なことは言わず、黙々と髪を切った。
3月の初め頃だったか。
いつものように散髪をしてもらい、終わって会計を済ませた後、私はおもむろにその若い店員に言った。
「3月末でこの町を離れるんですよ。ここに来るのも最後かも知れません」
そう言って、店を出ると、その若い店員のあんちゃんが、慌てて店の外まで追いかけてきた。
「今の話、本当ですか?」
「ええ。すみません、今まで黙ってて」
「転勤でしょう?今度はいつ帰ってくるんです?」
「いえ、もう帰ってくることはありません」
「そうですか…残念だなあ」
「3月末までに、もう1回くらい来るかも知れません」
「そうですか…ぜひ来てください」
だが結局、その散髪屋さんをふたたび訪れることなく、私はその町を離れた。
長年通い慣れた散髪屋の印象が強ければ強いほど、新しい町で散髪屋に入るには、かなり勇気がいるのだ。
自分に合う散髪屋は、この町でも見つかるだろうか?
町を徘徊しているうち、それらしい店を1軒見つけたので、入ろうとしたが、
「すみません。今日はもう閉店です」
時計を見ると、午後8時である。
散髪は、明日以降に持ち越しである。
そうだ!
今度あの町に行く機会があったら、時間を作って、通い慣れたあの店で散髪してもらうことにしようか。
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