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香川照之をめぐるあれこれ

ラジオのネタで、

「最近は僕の夢にまで香川照之が出てくる」

というのがあって大笑いしたのだが、つまりこれは、テレビドラマや映画にやたら出まくっている香川照之が、自分の見ている夢にまで出演している、という意味である。

香川照之は、最初はうだつのあがらない役者だった。

転機となったのは、中国映画「鬼が来た!(鬼子来了!)」(2000年公開、姜文監督)である。

香川照之にとって、この映画に参加した苛酷な体験が、後々まで、鮮烈な印象を残すものとなった。この体験により、香川照之は、「一皮むけた」のである。

彼は4カ月にもわたる、この映画に関する想像を絶する体験を、1日も欠かさず、日記に書きとどめた。

それをまとめたのが、『中国魅録 「鬼が来た!」撮影日記』である。

いまこれを、少しずつ読み進めている。

共感するのは、序章の、

「閉塞し、窒息しそうなほどキツかったあの状況で、日記だけが、この日記に1日の恨み辛みを書き記すことだけが私の密かな楽しみになっていった」

という部分である。

海外での孤独な体験は、ともすれば「どうかしてしまう」状況に陥ってしまう。それを、日記を書くことで、心のバランスを保っていたのである。

あの時の体験にくらべれば、テレビドラマや映画に出演しまくる、といういまの状況は、たいしたことではないのだろう。

そういえば最近、稲垣浩監督の時代劇映画「待ち伏せ」(1970年公開)を見た。

稲垣浩とは、「無法松の一生」の監督をした稲垣浩ですよ。

用心棒役に三船敏郎、渡り鳥役に石原裕次郎、医者崩れの悪党役に勝新太郎、小役人役に中村錦之助、それに、用心棒に思いを寄せる女に浅丘ルリ子という、各映画会社のスターが一堂に会する、何とも豪華な顔合わせなのだが、映画自体は、いたって平凡な内容である。

三船プロダクションの第1回製作作品ということで、三船敏郎がオイシイところを全部持っていってしまっている。言ってみれば三船敏郎のプロモーションビデオである。

三船自らが用心棒を演じたのは、いうまでもなく黒澤明監督の映画「用心棒」の大ヒットが、忘れられなかったからだろう。

監督を稲垣浩にしたのも、三船がかつて主演し、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「無法松の一生」が、忘れられなかったからであろう。

そんな三船の欲が見え隠れする映画である。

そんなことより、このころの浅丘ルリ子がとても美しく、しかも男に媚びずに筋を通す女性を演じていて、それがピタリとはまっている。

この映画の最初に、用心棒に「ある仕事」を依頼する人物、というのがあらわれるのだが、これを演じるのが八代目・市川中車である。

この市川中車は、出番は少ないが、うさんくさい奴というか、食えない奴といった感じで、そこはかとないキモチワルサを醸し出していて、とても印象的である。そしてこのうさんくささはまさに、香川照之が「半沢直樹」で演じた大和田常務そっくりである。

周知のように、香川照之は、歌舞伎界では九代目・市川中車を襲名しているが、八代目・市川中車の実兄(二代目・市川猿之助)の曾孫にあたる。

九代目・市川中車は、八代目の芸風を、見事に受け継いでいるのだ。

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