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ミートソースの夜

5月21日(水)

イタリア人に生まれたかったなあ。

…というくらい、パスタが好きである。

ただし、自分の作ったパスタが、である。

お店で食べるパスタは、さほどでもないが、自分で作ったパスタが、一番美味い。

これって、ナルシスト、ということなのか?

ま、基本的に「俺が俺が」という性格なのだ。

Photo 妻が立食パーティーで遅くなるというので、こういうときは、自分だけのミートソースを作るに限る。

挽肉とタマネギのみじん切りを炒めて、自分で適当に調合したソースをからめる。

だから、全然手がかかっていない。

イメージとしては、街の洋食屋さんのミートソースである。

そもそも私は、街の洋食屋さんが好きなのだ。

美味しく作るコツは、タマネギをよく炒めること。

何でもそうだが、タマネギをよく炒めれば、たいていの料理は美味しくなる、ということに気づいた。

…なんか自分の作った料理を語るって、キモチワルイな。

話題を変えよう。フライパンを洗っていて思い出した。

むかしNHKで、「しあわせの国 青い鳥ぱたぱた?」(1985年)という地味な単発ドラマがあって、退屈な日常に疑問を感じたOL(田中裕子)、単身赴任のサラリーマン(蟹江敬三)、孤独な老人(大友柳太郎)、母親に見捨てられた子ども、の4人が、一つ屋根の下で生活する、という話だった。

誰もが孤独を抱えている、というのが、このドラマのテーマだったと思う。

その中で、単身赴任のサラリーマン(蟹江敬三)が、元OL(田中裕子)と初めて夕飯を一緒に食べるという場面がある。

ふだん一人で食事をしている彼は、他人、ましてや女性と一緒にご飯を食べることに慣れていない。これといった話題もみつからないので、気まずい空気が流れる。そこで彼は、なんとか話題を取り繕おうと、彼女にこんなことを言うのである。

「この前、ひとりで鍋にこびりついた真っ黒なヤツ、あれ、ゴリゴリこそげ取ってたら…

…自殺したくなっちゃった」

このセリフのあと、彼は自虐的な笑いを浮かべるのだが、このときの蟹江敬三の言い方が、寂しげで、それでいて滑稽で、じつにすばらしかった。単身赴任のサラリーマンの悲哀が、この一言に凝縮されていた。

たぶんこのセリフの記憶が、私のよく言う「軽く死にたくなる」のルーツだろうと思う。

今日でいえばさしずめ、

「今朝、大雨と大風の中、痛い足をかばいながら、仕事で都内を延々歩いていたら、さしてる傘も全然意味がなくなっちゃって、びしょ濡れになって、靴の中にどんどん雨水が入ってぐちゃぐちゃになってきて、足は痛くなっちゃうし…

…軽く死にたくなっちゃった」

といったところだろう。

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