県境川暮色
小学校のころ、授業中に窓を見ると、虹が出ていた。
それも、珍しい「二重の虹」である。
どこかで、「二重の虹」を見ると幸せになれる、という話を聞いたことがあった。
それは、四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれる、というのと、同じような話として、受けとめていたのかもしれない。
窓の外の「二重の虹」を、めざとく見つけたのは、同じクラスのH君だった。
H君はいつも、何でもかんでも、めざとく見つけるのである。
「虹だ!Kちゃんに知らせないと!」
Kちゃんとは、隣のクラスの女の子である。
H君は授業中にもかかわらず、先生の制止をふりきって、教室を出て行った。
H君も、「二重の虹を見ると幸せになれる」という話を、四つ葉のクローバーの話と同じような感じで、知っていたのだろう。
そしてそれを、ほのかに好意を寄せていた、Kちゃんにいちばんに知らせよう、と思ったのだろう。
少したって、H君がうなだれた様子で教室に戻ってきた。
「どうしたの?」と先生が聞くと、
「Kちゃんに怒られた」
という。
「いまは授業中でしょ!」と言われたのだという。
まじめなKちゃんらしい言葉である。
それを聞いて、私はホッとした。
なぜなら私も、隣のクラスのKちゃんに、ほのかな好意を寄せていたからである。
…県境の川にかかる夕日を見て、そんな大昔の話を思い出した。
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