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キョスニム、母校に帰る・その2

6月12日(木)

午前、市内のはずれにあるお寺に向かったが、さんざんな目にあった。

まあそれはよい。

今日の夕方は、明日から開催される国際学術大会のレセプションである。

午後5時に、私の母校である大学に大会参加者が集まり、そこから車に分乗して、「山の上の食堂」に向かう。

私の指導教授とも、じつに久しぶりにお会いした。

留学中にお世話になった、何人もの先生とも再会する。

海外から招かれた研究発表者は、アメリカ、中国、そして日本である。

韓国の伝統的家屋の店で、韓国の伝統料理を食べながら、英語と中国語と韓国語が飛び交い、かなりカオスなレセプションだった。

アメリカから来た先生はとても紳士的だし、中国から来た先生はとても愛嬌があるし、いい人ばかりなのだが、いかんせん英語も中国語も喋れないので、コミュニケーションをとることができない。自分の語学力のなさをのろった。

私は、この国際学術大会の事務を担当しているカン先生に、気になっていることを聞いた。

「あのう…、明日の発表のことなんですけど」

「はい」

「韓国語で発表した方がいいんでしょうか?それとも、日本語で発表しても…」

ここまで言いかけて、ハッと気づいた。レセプションに参加しているメンバーの中で、日本語を理解できるのは、私の妻しかいない。

答えは予想通りだった。

「日本語は、通訳をするスタッフがいないんですよ。私たち、日本語がわからないので、できれば韓国語でお願いしたいのですが…。もし先生がどうしても無理ということでしたら、日本語でもかまいません。資料集には、翻訳文もついていますので」

ここで少し説明しておくと、発表原稿は、事前に日本語の原稿だけを提出し、翻訳は、韓国の主催者の方にまかせていた。

ところが、自分の原稿が、どのように翻訳されたのか、まったくわからない。当日に配布される資料集を見ないことには、わからないのである。

もうひとつ、気になることがあった。

韓国の学会では、発表者1人につき、必ず討論者が1人つくことになっている。討論者は、発表者の原稿をあらかじめ読み、疑問点などを書いた「討論文」というのを出す。学術大会当日には、その「討論文」に書かれた疑問などに対して、発表者が答えなければならないのである。

私の発表の討論者は、韓国の研究者だから、当然、韓国語で書かれているはずである。

しかしこの「討論文」もまた、あらかじめ送られて来たわけではなく、当日に配布される資料集を見るほかなかった。

ぶっつけ本番で討論文を読み、その答えを韓国語で答える、などという高度な芸当はできないから、ここはなんとしても、事前に資料集を入手して、あらかじめ答えを準備しておかなければならない。

主催者に頼んで、なんとか資料集を1部もらうことができたが、ここでまた問題が起きる。

指導教授の先生が、親しい者たちに「2次会に行くぞ」と言ったのである。

結局、夜11時半まで指導教授の先生たちと一緒にビールを飲み、ホテルに戻ってから、深夜3時まで、翻訳文の確認と、討論文に対する返答の原稿作成を行ったのであった。

本番前から、もうフラフラである。

はたして、明日の発表はうまくいくのか?

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