キョスニム、母校に帰る・その3
6月13日(金)
朝9時40分、国際学術大会が、母校の大学の国際会議室で始まった。
聞きに来ていた人たちは、50人くらいであろうか。5年前の留学中に一緒に勉強した、大学院生たちも聴きに来ていて、懐かしい顔ぶれに再会した。
私の持ち時間は、全体で40分で、そのうち発表が20分、討論が20分である。
11時過ぎ。いよいよ私の番である。
つっかえながらも、発表原稿の翻訳文を読み上げ、討論者の先生に対する答えも、準備していたおかげでひととおり答えることができた。
しかし、である。
司会者の先生が言う。
「ここでフロアのみなさんから、質問を受けたいと思います」
ええええぇぇぇぇっ??!!聞いてないぞ!
私の語学力は、アドリブに対してはまったく通用しないのである。
しかしまあ、質問なんぞ出ないだろう、と思っていたら、そうしたらあーた、次々と手が上がって矢継ぎ早に質問が出たではないか!
しかし、頭がパニックになってほとんど韓国語が聞き取れず、何も答えることができなくなってしまった。
(ああ、今すぐ死にたい…)
「あのう…壇上で今すぐ自決してよろしいでしょうか…」
と、喉まで出かかった。
はては、中国からいらした方も手を上げて中国語でコメントを言う始末。
こうなるともう、ナンダカワカラナイ。
結局私は、壇上で大恥をかいて、なんとか自分の持ち時間を消費したのであった。
(まあ、多くの人が関心を持って聞いてくれたのだから、よしとするか)
と、なんとか自分を慰めた。
さて、お昼の休憩時間。
食事を終えて会場に戻ろうとすると、私に声をかけるオジサンがいた。
留学中、毎週木曜日に参加していた研究会でよくお会いした、同じ市内の大学の先生である。
その研究会は、日本語がわかる先生が1人もおらず、私も韓国語の発表を聞き取るのに苦労したが、いろいろな先生とお会いできて、楽しい研究会だった。
「お久しぶりです。覚えてますか?」とその先生。
「ええ、研究会でよくお目にかかりました」
「昨日も夕方に研究会があって、あなたのことが話題に出たんですよ。それで聞きに来ました」
「ありがとうございます。お会いできて光栄です」
まだ覚えていただいていたことに、感謝した。
その先生と別れ、ふたたび会場に向かうと、背後から
「キョスニム!」
という女性の声がした。
振り返ると、語学学校の4級のときに習った、キム先生だった。妻も、キム先生から韓国語を習っていたので、2人にとって、懐かしい先生である。
「キョスニム、先ほどの発表、後ろの方で聞いていました」
「えっ?そうだったんですか??」
久しぶりに大学に行くので、事前にキム先生に連絡をとったところ、土曜日の夕方に一緒に食事をすることになっていたのだが、わざわざ時間をとって、私の発表を聞きに来てくれたのである。ありがたいことである。
私は緊張していて、壇上から客席を見渡すことができなかったので、まったく気づいていなかったのだ。
「ずいぶん緊張されていましたね」
「ええ、途中で死にたくなりました」
そういうとキム先生は笑った。
「では明日、お会いしましょう」
さて午後。
緊張の糸がぷっつり切れてしまった私に、急に眠気が襲ってきて、午後はほとんど記憶がない。
夕方6時。1日目の発表が終わり、参加者たちによる会食のあと、例によって指導教授に2次会に連れていかれ、ビールを飲む。
そのあと、カラオケに連れていかれそうになったが、丁重にお断りした。
夜11時、ようやく解放され、ホテルに戻った。
長い1日だった。
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