眼福の先生との再会
6月28日(土)
新幹線と地下鉄を乗り継いで3時間ほどかかるところに行く。
「眼福の先生」ことT先生と、久しぶりにお会いした。T先生を含む数名のチームで、あるところにおじゃまして、2泊3日の予定で、資料調査をするのだ。
私と妻は数年前から、T先生に勝手に弟子入りして、いろいろなところの調査にご一緒している。
けっこう大変な調査なので、調査をご快諾いただいた先方の担当者の方は、私たちが何をしでかすのか、かなり警戒しているようにも思えた。先方の担当者のkさんが、見た目がかなり恐いことも、少し私をびびらせた。
なるべく、ご迷惑をおかけしないようにしなければならない。
そもそも、われわれのマニアックな調査を、理解していただけるのか、という点も不安だった。
建物の一室をお借りして、午後1時半からはじまった1日目の調査は、5時に終了した。
終わってから、調査チームでお酒を飲みに行く。
今年傘寿を迎えるT先生以外は、みな私と同世代の研究仲間であるので、気兼ねなくお酒が飲める。
調子に乗って焼酎を飲んでいるうちに、7人で芋焼酎を1升飲んでしまった!もちろん、生ビールの中ジョッキを2杯飲んだ後である。
フラフラになってホテルに戻り、そのまま寝てしまったが、なぜか「道路に落とした寿司を拾って食べる」という夢を見た。
飲みすぎて、そうとう気分が悪くなった証拠だろう。
6月29日(日)
朝9時半から、調査開始。
少しあたまが痛かったが、思ったよりお酒は残っていなかった。
調査を続けていくうちに、当初は警戒していたと思われる、先方の担当者のKさんが、私たちの調査をしだいに面白がってくれるようになった。
T先生がじつに楽しそうに、調査の方法や成果をお話になる姿に、魅了されたのだと思う。
T先生のすごさはそこにある。自分が楽しみながら、それでいて周りの人々に気を使い、気がついたら、周りの人々はT先生の世界観の中にどっぷりとつかってしまうのである。
それは、専門が近い、遠いにかかわらず、である。
ああいう人になりたい、と思う。
夕方5時に調査が終わり、この日は、調査チームの4人に加え、先方の担当者のKさんとMさんを交えて、ささやかな懇親会である。
T先生のお話は、止まることを知らず、3時間続いた。
T先生のお話の大半は、戦前から戦後を生きた在野の研究者、M氏のことである。
M氏は当時、そうとうの「変わり者」だったらしいが、T先生は、そんなMさんの人生にのめり込んでいった。
T先生は本当に、Mさんのことが好きなんだなあ、と思う。
と同時に、話を聞いていて気がついた。
Mさんの人間性や特徴を、T先生を通じて聞いていると、それはそのまま、T先生にもあてはまるのだ。
そう、T先生は、Mさんなのだ。
Mさんのことが大好きなT先生もまた、Mさんのように生きているのだ。
「昨日、あなたが言っていたねえ」T先生が私に言った。「研究者は、みんなへそ曲がりなんだ、と」
「はあ」昨日はそうとう酔っ払っていて、あまり記憶がなかった。私はそんな失礼なことを言っていたのか、と恐縮した。
「その通りだよ。研究者は、『大へそ曲がり』でなくてはいけないんだ。だって、Mさんがそうだろう」
Mさんは、誰にも顧みられることなく、へそ曲がりと言われながら、研究を続けていた。
その研究は、いま誰よりも、T先生が高く評価している。
これを研究者冥利に尽きると言わずして、なんと言おう。
6月30日(月)
調査3日目。朝9時半から、建物の一室にこもってひたすら調査である。
今回の調査は、当初予定した以上の作業を進めることができ、無事終了した。
だが3日間、緊張の連続だったため、終わってからグッタリと疲れた。
明日からまた、通常の仕事である。
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