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真夏の器、砂の方程式

6月24日(火)

1月末が締切だった原稿を、なんと5カ月遅れて、ようやく脱稿した。

イヤー、苦しかった。

400字にして80枚程度。書いては消し、書いては消しの連続。

気が重く、荷が重く、気が乗らない仕事で、遅々として進まなかった。

職場が変わったり、学会発表が2回続いたりして、途中、何度も中断した。

しかし、早く自分の手から離したい、ということで、無理やり今日終わらせて、目をつむって送信した。

編集担当から書き直しを命ぜられること必定であるが、なんとか刊行日には間に合うだろう。

ということで、家に帰ってから、録画していた映画を見ることにした。

東野圭吾原作・福山雅治主演の「真夏の方程式」である!

実を言うと、先週土曜日に放送されたとき、リアルタイムで見ていたのであった。

その日、実家に帰っていた妻から、「面白いから見たほうがいい」と言われて、一人で家で見ることにしたのだが、ザッピングしながら見ていたため、いっこうにストーリーがわからなかった。

「ミステリー映画をザッピングしながら見るなんて、考えられヘン」

とあとでこっぴどく言われたので、もう一度、最初から見ることにしたのである。

福山雅治といえば、いつも私がネタにしているように、私と同い年である!

つまり、同級生、というわけだ。

世が世なら、私が湯川博士(劇中の福山雅治の役名)になっていたかも知れないのだ!

…ということで、自分が演じるつもりになって、見ることにした。

同じシーンを自分が演じたら、どうなるか。

たとえば、地方の小さな居酒屋で一人で地酒を飲んでいるシーン。

福山だからサマになっているし、いろんな人に声をかけられるのであって、私だったら、単なる寂しいオヤジが背中を丸めて飲んでいるだけで、まったく絵にならないだろうな。

とか、

会議に遅れてやってきて、堂々と椅子に座り、印象的なセリフを言ってその場を全部さらってしまうシーン。

福山だからサマになっているのであって、私だったら、大汗かいて会場に入ってきて、「すいません、すいません」なんか言いながら、汗を拭いているうちに、会議が終わってしまうだろうな。

とか。

まあそんなことばかり考えて見ていた。

さて、肝心の映画の内容だが、ライムスター宇多丸さんが、「福山雅治は、映画向きの役者ではないが、この映画(「真夏の方程式」)で一皮むけた」と評していたそうで、たしかに、この映画の福山雅治は、とてもよかったと思う。

さて、この映画を見た人が、誰しも抱いた感想だと思うが…。

「これって、『砂の器』じゃん!」

という思いを強くした。「砂の器」へのオマージュ作品なのではないか。

暗い過去の秘密が明るみに出るのをおそれて、殺人を犯してしまう、という全体のモチーフと、親子愛、というテーマは、まさに「砂の器」の縦糸と横糸である。

過去の事件を真相を確かめようとやってきた人の好い刑事(塩見三省)が、過去を明かされたくない者に殺されてしまう、という構図は、「砂の器」でいうところの、過去が明るみに出ることを恐れた和賀英良(加藤剛)が、人の好い巡査・三木謙一(緒形拳)を殺してしまう、という場面を連想させる。

何よりも、余命幾ばくもない車いすの老人(白竜)に面会した湯川(福山雅治)が、長らく会っていない娘の写真を見せて、それに対して老人が「何も知らない」と答えるシーンは、丹波哲郎扮する刑事が、ハンセン病施設にいる、余命幾ばくのない和賀の本当の父・本浦千代吉(加藤嘉)に息子の写真を見せるシーンと、まったく同じである!

あの、日本映画史上に残る、名シーンである!

以下、映画「砂の器」より。

Katouyoshi丹波哲郎「本浦千代吉さんですね」

加藤嘉「は、はい」

丹波「突然お邪魔したのは他でもありません。こういう人をご存じないかと思いまして」

(写真のコピーを手渡す。しばらくそれを眺めていた千代吉に嗚咽が漏れる)

丹波「こんな顔の人は知らないと?」

加藤「は、はい」

丹波「では、見たことも会ったこともないんですね?」

加藤「は、はい」

丹波「それじゃあ、あなたがよくご存知の人で、五つか六つの子供をこの青年にしてみたとしたら、…それでも心当たりはありませんか」

加藤「(感極まって)うあ~、うあ~!!知らねぇ!!そんな人知らねぇ!!ぅわ~!!」

日本映画史上、最も涙を誘うシーンである。

「真夏の方程式」は、東野圭吾流の「砂の器」をやりたかったんじゃないだろうか。

原作を読んでいないのでわからないが、少なくとも映画としては、そこをめざしていたのではないか、と思う。

ま、映画を見た人誰もが思ったことだと思うが。

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