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カブとひき肉のあんかけ

6月7日(土)

冷蔵庫の野菜室に入っている「カブ」を消費しなければいけなかったので、試みにカブとひき肉のあんかけ、というものを作ってみた。

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やっぱりカブは美味しいねえ。あっという間に平らげてしまった。

遠藤周作の劣等感について、もう少し書く。

遠藤周作と同世代の作家の多くが、東大文学部の出身だった。

遠藤周作自身は、慶応大学の仏文科を卒業していて、なにも引け目を感じることはないはずである。

それにそもそも、どういう学歴をたどろうと、それは作家や作品には、なんの関係もないことである。

しかし東大文学部出身の作家の多くは、自らの学歴をやはりどこか誇示したいらしく、それが表に出る度に、たとえ冗談めかして言った言葉であっても、遠藤には耐えられなかったのではないだろうか、と想像してみたりする。

これとはまったく関係ない話だが、思い出したことがある。

10年ほど前のことであろうか。

最近の作家が書いた推理小説やミステリー小説を読んでみようと思い立ったことがあった。

いつまでも、横溝正史だの、松本清張だのとばかりは言ってられない、と思ったのである。

最近の作家のミステリー小説にわりと詳しいγさん、という人がいて、私はγさんから、折にふれて、面白いミステリー小説を紹介してもらったりしていた。

ある日、詳しい状況は覚えていないのだが、γさんと、γさんと仲のよいβさんが話しているところへ、私が所用で訪ねていったことがあり、そのときたまたま、ミステリー小説の話になった。最近、γさんからミステリー小説を紹介してもらったりしているんですよ、などと、βさんにお話ししたのだと思う。

すると、βさんは私に言った。

「天藤真、面白いですよ」

「テンドウシン?」

「ええ、天藤真です。知りません?」

「はぁ。お恥ずかしいんですが、知りません」

「『背が高くて東大出』。知りません?」

「何ですか?それ」

「小説のタイトルです。本当に知りません?」

「知りません」

まるで知っているのが当然、というような口ぶりだった。

「東大の国文科を出て、ミステリー作家になった人ですよ」

「はあ、そうですか…」

βさんとはそれまでもいろいろな話をしてきたのだが、βさんの口からミステリー小説の話を聞くのは、これが初めてだった。βさん自身、そういうことにあまり関心を持たないタイプのように思えた。

ところが、なぜか今日は、ミステリー小説の話を私にしてくるのだ。

しかし話を聞いているうちに、ある仮説が私の頭の中に浮かんできた。

βさんは、東大の出身である。

つまり、彼が天藤真をしきりに薦めるのは、βさん自身が東大出身であることが、深く関係しているのではないだろうか、と。

しかし、それがいったい何だというのだ?少なくともそんな情報は、作家性とは何の関係もないことである。

しかしβさんは、しきりにそのことを強調していたのである。

しかも、βさんがあげた小説のタイトルが『背が高くて東大出』である。タイトルからすると、おそらく東大出身の人物が重要な鍵を握るような小説なのだろう。

自分の無知を反省し、あとで天藤真について調べてみると、『大誘拐』を書いた人だというではないか。

ふつうは彼の代表作としてあげるとすれば、『大誘拐』なのではないだろうか。だがβさんは『大誘拐』のタイトルはまったく出すことなく、なぜか『背が高くて東大出』を真っ先にあげたのである。

私は、東大国文科出身のミステリー作家の、しかも東大出身者が登場する小説を、βさんが誇らしげに紹介している様子を見て、何となく、どんよりした気持ちになった。

そのとき隣にいたγさんは、βさんの話に相づちを打ちながら私に言った。

「天藤真、たしかに面白いよ」

ミステリー小説好きのγさんも言うくらいなのだから、たしかに面白いのだろう。

しかし、まだ引っかかるところがあった。

それまでミステリー小説にまったく関心を示さなかったβさんが、なぜいきなり、さもミステリー小説に詳しいがごとく、私に薦めてきたのだろう。

もちろん、もともとβさんがミステリー小説に詳しかった可能性もある。

しかしそのとき私の頭をかすめたのは、βさんが、ひそかに好意を寄せるγさんの前で、ミステリー小説に関する知識を披露したかったのではないだろうか、という仮説だった。

そしてβさんとミステリー小説を結びつける要素の一つが、作家が東大国文科出身である、ということだったのではないだろうか。

…しかしここまでくると、完全な私の妄想であり、まったく根も葉もない。

もはやおぼろげな記憶となってしまったが、このときのやりとりそのものは、明確に覚えている。そしてこれがきっかけで、天藤真の小説を書店で見かけても、手に取らなくなってしまったのである。

もう、γさんともβさんともお会いする機会がなくなり、ミステリー小説について話題を交わすこともなくなったのだが、もしいまお会いしたとしたら、

「天藤真原作の映画『大誘拐』は、韓国で『クォン・スンプン女史拉致事件』という、原作のタイトルとは似ても似つかないタイトルで映画がリメイクされて、これがけっこう面白いんですよ」

と、私は言うだろう。

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