海の見える町
伊藤整の短編小説「海の見える町」を思春期のときに読んだ。
この小説自体が、伊藤整の思春期のことを書いた私小説のようなものである。
一読して、思春期の「私」があまりに自意識過剰で、それでいて嫉妬深いところが、恐いくらいに、当時の私にもあてはまっていた。
伊藤整の小説は、これ以外、読んだことがない。
あらためて調べてみると、この小説が書かれたのは、1954年で、伊藤が49歳のときである。
そこである疑念がよぎる。
この小説の中で書かれている、思春期のときの面倒くさい感情は、本当に当時の感情だったのだろうか。
いや、本当にそうだったとしても、このときの感情を事細かに書いたのは、なぜなのか。
いまの自分の感情を、思春期の時代に投影したかったからではないだろうか。
この小説に見える「自意識過剰」や「嫉妬」の感情は、その後もずっと、伊藤を支配し続けたに違いない。
大人になって、わかったことである。
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