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都合のいい人

8月6日(水)

またまた旅の空です。

夕方ギリギリまで職場で仕事をして、慌てて旅支度をして職場を出た。

山の上にある職場を出て、小型のスーツケースを引きずりながらリュックサックを背負って、汗だくで坂道を下ろうとすると、横を通る車の窓から、職員さんの声がした。

「出張ですか?」

「ええ」

「大変ですねえ。駅までお送りしましょうか?」

「いいんですか?」

「どうぞ」

「助かります」

地獄に仏、とはこのことである。

この炎天下、重い荷物を引きずりながら山道を下り、15分かけて駅まで歩くのは、かなりキツイ。

お言葉に甘えて車に乗せてもらうことにした。

それにしても、ふつうだったらこんな「汗だるま」、キモチワルくて絶対に自分の車に乗せたがらないはずだが、見ていてよっぽど哀れに思ったのだろう。

「すみません。こんなに汗だくで」

「いいえ、こちらは大丈夫ですよ。先生、出張多いですよね」

「ええ」

そういえば、この職員さんは、教員の出張の動向を把握する部署にいる方だった。

「この前も、同じように重い荷物を持ちながら駅に歩いて行かれるのを見て、大変だなあ、と」

「はあ、そうでしたか」やはりかなり哀れに見えたらしい。

私は思いきって聞いてみた。

「あのう、私って、ほかの同僚にくらべると、出張が多いほうなんでしょうか」

「何言ってるんです?『多いほう』なんてものじゃありません。飛び抜けて多いです」

「そうなんですか」全然知らなかった。

「事務室に、先生方の出張予定ををまとめたホワイトボードがあるでしょう?」

「ええ」私はあまり見たことがないが、たしか、マジックで教員の名前を書いたマグネットがあって、出張のさいには、そのマグネットを出張の出発日の所に置き、出張の期間を、マジックで「→」と書くのである。

…どうもわかりにくいな。

つまり、教員が出張の場合は、教員の名前が書かれた円いマグネットがホワイトボードに貼られて、「○→」というように、何日から何日まで、その教員が出張であることがわかるように書き込むのである。

「今月は、先生のマグネットが足りなくなったんです」

「そうなんですか」

名前が書かれたマグネットは、各教員一人ひとりにつき2,3個用意されているはずなのだが、1カ月に5回も6回も出張する私の場合、そのマグネットの数が足りなくなった、というのだ。

…どうもわかりにくい話ですみません。

「ですので、先生だけ特別に、マグネットを多めに作った方がいいんじゃないか、とみんなで言っていたんですよ」

「そうだったんですか…」

私は落ち込んだ。出張が多い職場だとは聞いていて、(まあこんなものなんだろうな…)と思っていたが、さにあらず、私はハナっから桁違いに出張の数が多かったのだ。しかも、新人1年目から、である。

どおりで疲れると思った。ふつうに考えて、こんなに出張が多いはずはないもの。

これではいくらなんでも、1年目から飛ばしすぎである。

どうしてこんなことになったのか???

自らを振り返ると、どうも私は、「便利屋」のように、便利に使われる人らしい。

いろいろな人に、いろいろなことを頼まれ、それは親しみを込めて頼んでくるのだろうとこっちは思うので、できるだけ必死にそれに応えようとするのだが、どうも違うのではないか、という気がしてきた。

たんに「便利に使われる人」「都合のいい人」なのではないだろうか。

私は「話を聞く人」であり、「便利に使える人」なのだ。

そういう役回りなのだ。

そのことを、肝に銘じなければならない。

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