10秒間の覚悟
1年くらい前だったか。
妻に勧められて、映画「グッド・ウィル・ハンティング」(1997年公開)を見た。
当時無名だったマット・デイモンが、ハーバード大学在学中に書いた戯曲をもとに、親友であるベン・アフレックと一緒に脚本を共同執筆し、紆余曲折を経て映画化された。主役のウィルを、マット・デイモンが演じ、親友のチャッキーをベン・アフレックが演じている。私生活でも親友同士の二人が、映画の中でも親友を演じたのである。
マット・デイモン演じるウィルは、わかりやすくいえば、フリーターである。エリート大学の清掃員などのアルバイトをしながら、ふだんは不良仲間たちと、つるんで遊んでいる。素行の悪い青年だった。
しかし、このウィルには、とてつもない才能があった。
それは、数学の才能である。
その才能を見いだしたのが、エリート大学の数学の教授である。
エリート大学の教授は、なんとかしてウィルに学問をさせたいと思うのだが、ウィルにはまったくその気がない。それどころか、自分の殻に閉じこもるばかりである。
彼には、深い心の傷があったのだ。
そこで教授は、自分の学生時代の親友で、コミュニティカレッジで心理学を教えるショーン(ロビン・ウィリアムス)のもとに、彼を連れていく。最初はショーンを馬鹿にしていたウィルだったが、次第に、ショーンが自分と同じく深い心の傷を負っている人であることがわかり、心を開いていくようになる。
…とまあ、映画は実際に見ていただくとして、私が大好きな場面は、ウィルとチャッキーの二人の場面である。
ウィルは、不良仲間たちと、酒とケンカに明け暮れていた。その仲間のひとりが、チャッキーであった。
親友のチャッキーは、ウィルが、とてつもない才能を持っていることを、知っていた。
レンガ積みのアルバイトの休憩中に、二人はこんな会話をする。
ウィル「俺は一生ここで働いたって平気だぜ」
チャッキー「親友だからハッキリ言う。20年経って、お前がまだこの家に住んでたら、俺はお前をぶっ殺してやる。これはマジだ」
ウィル「なに言ってんの?」
チャッキー「俺が50になって、工事現場で働いててもいい。だがお前は宝くじの当たり券を持っていて、それを現金化する勇気がないんだ。お前以外のみんなはその券をほしいと思ってる。それをムダにするなんて許せない」
ウィル「……」
チャッキー「俺はこう思ってる。毎日、お前を家まで迎えに行き、酒を飲んでバカ話、それも楽しい。でも一番のスリルは、車を降りて、お前んちの玄関に行く10秒間。ノックしてもお前は出てこない。何の挨拶もなく、お前は消えてる。そうなればいい」
ウィル「……」
本当の親友とは何だろう、と考えたとき、たぶん、こういうことなのだろう、と思わせるセリフである。
こういうことを、言える覚悟。
と同時に、親友の家の玄関にたどり着くまでの10秒間、
(ひょっとして、あいつ、いないんじゃねえか。何も言わずに、オレのもとを去っていったんじゃないか)
と思うスリル、というのが何ともいえず、いい。
彼は、毎日そう思って、親友の家の玄関をノックする。
その覚悟こそが、親友の証しなのではないか。
…この場面を、親友同士のマット・デイモンとベン・アフレックが演じている、というのも、「虚実皮膜」な感じがして、よい。
ああ、また「グッド・ウィル・ハンティング」が見たくなった!
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