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続・謎のオカベさん

ふだん、めったにメールが来ないこぶぎさんから、韓国滞在中にメールが来た。ブログを見て送ってきたものと思われる。

「ハタチの女子風のコメント書こうとしましたが、思いつかず失礼しました。 だって、この人たちの好物は「恋バナ」ですから、どうにも歯が立ちません。 さて、8/29-9/1にゼミ旅行でソウルに行きますが、鬼瓦先生とは入れ違いかし ら。今回は国楽院の土曜名品公演を観覧予定(学生はのらないと思いますが)」

これに対する私の返事。

「韓国は25日までいます。9月1日から某大学で集中講義なのです。ちょうど入れ違いですな。残念。謎のオカベさんコントは次回に」

これに対するこぶぎさんの返事。

「残念。こううまくいかないばかりだと、謎のオカベさんと会えたこと自体が、相当なナゾです」

ここで、「謎のオカベさん」について注釈をしておかなければならない。

以前、ブログにも書いたが、「前の前の職場」のOさんは毎年、学生を韓国に引率する実習をしていて、私やこぶぎさんは、その実習についていくのが常だった。私は職場が変わってからも、Oさんの実習に参加していた。

ある年の実習のときのこと。博多港からフェリーに乗って釜山港につくと、どこからともなく「オカベさん」というおじさんがあらわれて、我々の実習に同行することになった。Oさんに聞いてみると、「知り合いだ」というのだが、それ以上のことはわからない。オカベさんも、何も語らずに、ニコニコと実習についてくるだけである。

数日後、実習が終わって我々一行が釜山港から博多港へ向かう船に乗ろうとすると、

「じゃあ、私はこれで」

と、そのままどこかへ立ち去ってしまった。

結局、オカベさんが何者だったのか、わからずじまいで、それ以来私たちの間では、「謎のオカベさん」と呼ぶようになった。

それから数年たって、こぶぎさんとそんな話になり、

「もしどちらかが、学生を引率して韓国に行くことがあったら、もう一方が、『謎のオカベさん』みたいに、事情も言わずに合流して、実習が終わったら何も言わず去って行く、という遊びをしよう」

ということになった。「謎のオカベさんコント」とは、そのことである。

しかし私は、昨年度で教師稼業を廃業してしまったため、あとはこぶぎさんが、学生を引率して韓国に行く機会をとらえるしかない。

そして今年、ようやくその機会がととのったと思ったら、もうちょっとのところで日程が合わず、「すれ違い」になってしまった。

「こううまくいかないばかりだと、謎のオカベさんと会えたこと自体が、相当なナゾです」というこぶぎさんの言葉は、そのことを指している。

本当に、人生というのは、すれ違いが多い。

私の実感だと、親しい人ほど、すれ違いが多いような気がする。離れたところにいれば、なおさらである。

「会えたこと自体が、相当なナゾです」というこぶぎさんの言葉は、「会えること自体が、奇跡です」と言っているに等しい。

人間はすれ違うことがふつうで、もしすれ違うことがなければ、それは「奇跡」であるとして、感謝すべきことなのだろう。

ふだん忙しくて、心に余裕がない人であれば、なおさらである。

もっと穿った見方をすれば、心に余裕がないことが、すれ違いをもたらしているともいえる。

もしもすれ違うことなく、どこかでまた会うようなことがあれば、それは、自分や相手の心に余裕があるということと、深く関係しているのかも知れない。

そう考えると、「謎のオカベさん」は、心に余裕がある人だったんだろうな。

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