« ロードムービーにはほど遠い | トップページ | 10秒間の覚悟 »

私鉄沿線

8月12日(火)

生きていると、ごくたまに、映画みたいなことが起こる。

私がふだん通勤に使っている電車は、小さな私鉄会社の電車である。

N国際空港に向かう旅行客がよく利用する。

私の職場は、都内とは正反対、つまりN国際空港方面にあるので、幸いなことに、ひどい通勤ラッシュに見舞われるということは、ほとんどない。下りの電車の中は、どちらかといえば、通勤する人よりも、旅行客のほうが多いのである。

同僚は自動車通勤が多かったり、通勤時間がバラバラだったりするので、電車の中でめったに知り合いに会うこともない。

さて、今日。

昨日の旅で心身ともにすっかりと疲れ果てて、通勤のときは虚脱状態で、ボーッとしながら電車の座席に座っていた。本を読むわけでも、音楽を聴くわけでもなく、うつらうつらとしていた。

すると、

「先生、先生!」

と呼ぶ声がする。

見上げると、

「私です。Yです」

なんと!今年3月に卒業したYさんだった。

無防備にも野面(のづら)で電車に乗っていた私は、ビックリした。

「Yさん!あービックリした」

「私もビックリしました。先生、これからお仕事ですか?」

「うん。Yさんも?」

「ええ」

「いまどのあたりに住んでいるの」

「この私鉄の沿線です」

Yさんがこの3月に卒業したあと、Aという国内の航空会社に就職し、N国際空港で働くことになったことは知っていた。つまり自宅からN国際空港に出勤する途中、たまたま乗った車両に、私が乗り合わせていた、というわけである。

考えてみれば私と職場が近いので、同じ電車に乗り合わせることも、理屈ではあり得るわけなのだが、それにしても驚いた。

話せば長くなるが、Yさんは、私が直接指導した学生ではない。だが、Yさんが1年間の海外留学から帰った後の大学4年になってから、お話する機会ができたのであった。

Yさんには、仲のいい親友のNさんがいて、Nさんもまた、私の直接の教え子ではなかったが、海外留学経験者だったこともあり、やはり私とお話しする機会が多かった。

YさんとNさんのやりとりを聞いていると、「この二人は、本当に仲がいいんだなあ」と、うらやましく思ったものである。とくにお酒を飲んだときの二人の丁々発止のやりとりは、面白かった。

で、YさんもNさんも、卒業後は関東に住むことになる、というので、いつか食事会をしましょうと、追いコンのときになんとメアドの交換までしたのである!

しかし月日がたつのは早い。私はもちろん、YさんもNさんも、新しい環境に慣れるのに必死で、それどころではなかったのである。

(二人とも直接の教え子というわけではないし、もうすっかり忘れられているのだろうな)

と思っていた矢先に、Yさんと再会したという次第。

私の職場の最寄り駅は、N国際空港駅よりも手前にあるので、「じゃあまた」と、私が先に降りた。

すると、ほどなくして携帯にメールが来た。

「先ほどはまさか電車内で再会するなんて、驚きました!今度Nと近況報告を兼ねて、一緒にご飯でも食べに行けたら嬉しいです!では私はいまから仕事に行ってきます!」

もうすっかり社会人なんだなあ、と、感慨深く思った。

私は返信を送った。

「私も誰も知り合いが乗っていないと思い無防備だったのでビックリしました。こんなことってあるんですねえ。すっかり社会人の顔になっていて、頼もしく思いました。食事会、実現させましょう。お仕事頑張ってください」

するとYさんからすぐに返信が来た。

「本当にこんな偶然ってあるんですね。社会人の顔なんてまだまだです。入社してから、つらいこともたくさんありましたが、なんとかやっております。いろいろな近況報告もしたいですし、Nにも連絡して、日程の候補がきまったら連絡いたします。先生もお仕事頑張ってください!」

このメールは、私をずいぶん励ました。私は、さらに自分を励ますがごとくに、返信を書いた。

「つらいことも多いでしょうけれど、一日一日乗り越えていきましょう!」

昨日までの憂鬱な気分が、いつの間にかどこかへと消えていった。

電車の中で偶然に再会する、なんて、映画みたいな話だが、これがあるんだな、実際に。

ただひとつ心配なことがある。

私が忙しすぎて、はたして食事会は本当に実現するのだろうか?

まあ、こういう出来事があっただけでも、十分である。

|

« ロードムービーにはほど遠い | トップページ | 10秒間の覚悟 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

「鬼瓦先生の出身校のある町」の老舗のトンカツ屋でこの記事を読み、再会を祝して勝手に乾杯しました(笑)。
ちょっと似た体験がありますよ。何年も前に京都で「同業者まつり」があり、八条口近辺の安宿に泊まって、ロビー階でしがない朝食をしたためていると、後ろから声がしまして。
「ひょん先生」
「!?」
そこにいたのは、われわれの「前の職場」のGBR専修をたしか2年くらい前に卒業して、「東北地方の中核都市」在住のはずのO君でした。
「…」数秒間、アホみたいに見つめ合ったあげくになんで京都にいるの、と聞いたところ、友だちの結婚式に呼ばれたのだとか。こんな偶然ってあるのかと思いました。でも別に食事会の話は出ませんでした(笑)。
電車に乗り合わせたのは偶然でしょうが、声をかけて食事会をしましょうとなったのはYさんの意志なので、偶然じゃないですね。そしてそうなるのは、鬼瓦先生がいつ訪ねてもイヤな顔もせず応対してくれる心の広い先生だからですね。そしてその心の広さのゆえに、頼まれた仕事は断れないと。二日間の出来事は、いずれも必然ですね。
というわけでおとなしくあきらめて、これからも旅の空で仕事に励んで下さい。カーペ・ディエム!

投稿: 八卦ひょん | 2014年8月13日 (水) 22時17分

そういえば以前、偶然と必然の問題について、「前の職場」の隣の部局の若き哲学者と、あるパーティで初めて会ったとき、議論したことがあります。

「世間は狭いのか広いのか」
http://yossy-m.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/post-0928.html

その後、その若き哲学者と、道でバッタリ会ったことがあり、
(これははたして偶然なのか?必然なのか?)
と、さらにわけがわからなくなったのでした。

投稿: onigawaragonzou | 2014年8月14日 (木) 02時26分

ひとつ訂正。二日間の出来事のうち、「新幹線車内ド迫力道連れ事件」は、あれは全くの偶然ですね(笑)。でも一応、若き哲学者の意見を聞いてみたいです。

投稿: 八卦ひょん | 2014年8月14日 (木) 09時02分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ロードムービーにはほど遠い | トップページ | 10秒間の覚悟 »