お手紙小説
10月28日(火)
またまた、旅の空です。
書店で森見登美彦『恋文の技術』(ポプラ文庫)という本が目に入って、なんとなく惹かれて購入した。森見登美彦の小説を読むのは、初めてである。
タイトルのイメージと違い、ハウ・ツー本ではなく、れっきとした小説である。
しかも、全編が一人の人物による手紙の形式をとっている。
クラゲの研究をしている主人公の男は、京都の大学院から、遠く離れた能登の実験所に飛ばされる。
一人寂しく暮らす主人公は、文通修業と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。研究室の友人、先輩、作家になった大学の先輩、家庭教師先の小学生、そして妹…。
しかし、本当に届けたい人のもとに、手紙を書くことができない。
はたして彼は、本当に届けたい人のもとに、手紙を書くことができるのか?
約2時間の行きの飛行機の中で、一気に読んでしまった。
いやあ、バカバカしい!くだらない!
でもおもしろい!
ゲラゲラ笑いながら読んだが、書き散らしたクドい手紙が、最後にすべてひとつのもとに収斂され、大団円を迎える。
読みながら、ちょっと涙が出た。
主人公の男は、愛すべきダメ人間である。
しかし、ダメ人間が、お馬鹿でクドい手紙を書き続けることで、まわりの状況を少しずつ変えていく。
それは、ほんのちょっとした変化なのだろうけれど、みんなが少しずつ幸福に向かう変化である。
そして主人公自身も、おバカな手紙を書き続けた先に、「本当に届けたい人への手紙」の極意を手に入れる。
おバカな手紙を書き続けることで、主人公は、ほんの少しだけ、成長するのである。
人間が伝えたいことって、案外こういうことなんだな、というのを、あらためて思い知らされる。
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コメント
失敗書簡(其ノ一)
11月4日
拝啓
天高く馬肥えるの候、鬼瓦さんにおかれては、八面六臂のご活躍とのことで、ご尊敬申し上げます。
私は相変わらず東京を遠く離れ、雪国の研究室に派遣されています。郷に入りては何とやら。スローライフも身になじみ、自然の中で生活できる豊かさを実感しております。
先日などは、ドゥワイエンヌデュコミス探しの副産物で、ミニトマト・バイキングなるものを体験しその美味しさに驚きました。黄色、オレンジ、紫、緑色と、トマトは赤いだけではない。中でもイエローアイコは美味。旬を外れた時期はふつうのトマトでなく、ミニトマトをたしなむべきとは、かのコイブミー教授も指摘するところです。
今日は会議もなく、日差しの良い学生ホールで日がな読書にいそしみました。全く優雅である。気づくと夕日は落ちて山の端を紫に染め、紅葉の山々がシルエットとなって浮かぶ美しい光景でした。忙中閑ありとでも申すのでしょうか。やはり自然あふれる中で、晩秋の柔らかな日差しの下、ゆっくりと書物に親しむのが、高等遊民のささやかな楽しみである。
気分がよいので、市立図書館から借りてきた本も読んでみました。なにやら、僕がこっそり書いているブログの名前に似た団体が出てくるのですが、大学時代から大の文学少女だった鬼瓦さんは、既にお読みでしょう(中断)
(反省)
せっかく、ただ「ミニトマトがうまい」というだけのオチのない文章をブログに書きたくて(だって美味しかったんだもの)、ならば手紙形式にすればよいかもと、わざわざ市立図書館から手紙のマニュアル本を借りてきたのだが、これが実に下らなすぎる。
荒天の3連休で計画が丸つぶれ。毎日昼過ぎに起きては「食神ロード」の動画をひたすら見まくる自堕落な生活で、しかも気が付くと画面にほだされてブドウパンを一斤食べ切ってしまっている不健康さをおくびにも出さない文面であったが、いざこのマニュアル本を参考にしようとして筆が止まった。
だいたい生まれてこの方、オ○パ○(プライバシー保護およびセクシャル・ハラスメント防止の観点から伏せ字にしております)なんて言葉、手紙どころかブログにだって、一度も書いたことはないぞ。しかも文章の成り行きで、愛しの鬼瓦夏子さんにも、こんなお下劣本を薦めてしまうとは、こんな手紙は今すぐにでも燃やしてしまいたい。嘘である。燃やすと、ろくなことにならない。
そもそも、普段から大した用件などない、赤い風船に結ばれたようなブログ記事しか書いたことがない。しかも、「かきつばた」とか詩を織り込むとか伏せ字とか、著者自ら文中に登場するとか、既に実戦、いや実践済みデスヨ。候文とか桃尻文体なんぞ書きたくもないぷー。
まったく、こんな本を紹介するようなブログ作者の気が知れない。嘘である。これほど下らないのに、最後まで読まずに市立図書館の夜間ポストに返却することができず、図書館近くのココスに居座って読了した挙句、その場でコメント原稿まで書いて来たのです。
ゆめゆめうたがうことなかれ。
投稿: こぶぎ一郎 | 2014年11月 5日 (水) 00時06分