3月5日(木)
ありがたいことに、いろいろな方から、仕事の依頼をいただく。
半年ほど前、見知らぬ方から講演を頼まれた。
いきなりメールが来て、しかもそれがとてもぶっきらぼうな書き方で、最小限のことしか書かれていない内容だった。
何回かメールでやりとりをしたのだが、その方は、いつも最小限のことしか書かない。たとえば、毎回、こんな感じである。
「講座の会場を3月×日で押さえました。宜しくお願い致します」
「各広報の締め切りが12月中旬のため、先生の講演テーマと簡単な趣旨説明をメールで結構ですからそれまでにはお送りください]
「送りいただいた、講演趣旨ですがやはり長いようです。少し整理して2行ほどにしていただけませんか」
えっ、これだけ?と、いつも思う。
私は古いタイプの人間なので、最小限のことしか書いていないメールが来ると、「私に関心がないのだな」「私は軽く見られているのだな」「私はそのていどの人間なのだな」と、つい思ってしまう。
なので返信するときは、いただいたメールと同じように最小限のことしか書かないことにしている。「どうせ私がクドい返信を書いたところで、迷惑なんでしょう」と。
まあ、お忙しくて私になどかまってられないのかも知れない。
昨日もその依頼者から短いメールが来た。
「当日配布する資料は、講演会の1週間前までにメールで結構ですからお送りください。資料印刷要員が待っています」
また、これだけである。
1週間も前に提出しなければならないのか!ということにも驚いたが、もっと驚いたのは、「資料印刷要員が待っています」というくだりである。
資料印刷要員って、誰だ?
それはともかく、私には、「あんたが期日通りに提出しないと、資料印刷要員が困るよ」という脅しのように聞こえてしまうのである。
…私の被害妄想か?
もちろん、相手にも事情があることはわかっているのだが、その事情を私にさりげなくアピールすることで、私の動きをあらかじめ封じておこうというねらいがあるように思えてならない。
「そう思うお前の心が汚い」と言われれば反論できないが、私はどうもそういうふうに書かれるのが、苦手なのである。
そんなふうな、「さりげない事情アピールメール」が来ると、
(たぶん、俺のことに関して迷惑しているんだろうなあ)
と、いつも深読みして落ち込んでしまうのである。
誤解のないように言うが、そう受け取る私のほうが悪いのである。
それに、私も同じことをしているのかも知れない。
まあそれはともかく。
しかし、もし期日までに出せなかったらどうしよう?と思い、「もし期日を過ぎてしまった場合は、こちらで印刷してもっていきますので、部数を教えてください」とメールで聞いたところ、
「200部です」と返信があった。
に、200部???
俺の話を聞きにそんなにお客さんが来るはずがない、と思うのだが、まあそれはさておき、200部もこちらで印刷するのはしんどい。
ということで、急遽配付資料の原稿を作ることにした。
最小限のメールのやりとりで、かなりテンションが下がっていたが、ここは一つ、全力でとり組んでやろうと思い、原稿を作ったら、文章レジュメがA4で16頁、図版レジュメもほぼ同等のページ数になった。
つまり、全部で30頁ほどである。
これを200部印刷するとしたら、30×200=6000、つまりA4で6000枚である。
でもまあ、講演会まで1週間も余裕があって、「資料印刷要員」なる人たちもいるのだから、印刷していただけるだろう。
問題は、用意した資料のページ数が多すぎて、2時間で喋り終わるか?である。
そうかと思うと、こんな依頼もあった。ここからはまた別の話。
今日職場に行ったら、昨日の出張中に私に電話があったと、事務補佐員さんが教えてくれた。
名前を聞くと、もう何年もお会いしていない、大学院時代の先輩である。
「また電話します、とのことでした」と事務補佐員さんが伝えてくれたのだが、だが私もいつも職場の仕事部屋にいるとは限らない。
「今度その方から電話がかかってきて、もし私が不在だったら、電話番号を聞いておいてください」
と私が事務補佐員さんにお願いすると、
「実は昨日、その方にお電話番号を聞いてみたんです。そうしたらその方は、『私は彼(つまり私のこと)よりも年上なので、もし私が電話番号を教えたら、彼は気を使って、きっと彼のほうから電話をかけてきてしまう。それでは大変申し訳ないので、あらためてかけ直します』とおっしゃったんです」
「はぁ」
しばらくお会いしていない、その先輩のことをだんだん思い出してきた。その先輩はむかしから、そういう律儀な面があったのだ。
年上の方から、そこまで気を使っていただいたことはいままでないぞ!私は感動した。
今日の午後、その先輩から電話が来た。原稿の依頼である。
「いずれ出版社から執筆要項が来ると思いますが、その前にぜひ、直接お願いしておかなければと思って」
私はこれにも感動した。
ここ最近、そうした根回しがまったくないまま、いきなり出版社から執筆要項が送られて来たりすることが多かったからである。
ちゃんと手順を踏んで、厭わずに実行されている先輩を尊敬した。
実に久しぶりにその先輩とお話しをしたが、昔と変わらず、よく喋る先輩だった。
礼を尽くすってのは、つくづく大事なことだ、と思った。私はそれができず、他人に不快な思いをさせていることに、反省するばかりである。
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