再びアトリエ村へ
3月18日(水)
先々週に続き、再び日帰りでアトリエ村に行く。
前回製作したモノの最終確認を行うためである。先々週と同じ時間の新幹線に乗り、在来線に乗り換え、最寄りの駅まで車で迎えに来てもらう。アトリエ村の工房に着いたのは、家を出てから4時間後のことであった。
最終確認も無事に終わり、工房の車で再び山を下りることになった。
車に乗ろうとして、工房の前にある野球のグランドにふと目がとまった。
高校生が、野球の練習をしている。
私の中で疑問がわいてきて、運転してくれる工房の人に聞いた。
「彼らは、どうやってこのグランドまで来てるんですか?」
前にも書いたが、工房のあるこのアトリエ村は、びっくりするくらい標高の高い山の上にあるのである。しかも、公共の交通手段はなく、自家用車などを使わなければ、たどり着けないのだ。
「ああ、彼らは、走ってここまで来てるんですよ」
「は、走って!!??ここはずいぶん山の上ですよ」
「ええ。彼らの高校は、以前、甲子園大会で準優勝したことがありましてね」
グランドの看板を見ると、○○高校グランド、と書いてあった。
「この高校でレギュラーを勝ち取るためには、このグランドまで10分でかけ登らなければならないんです」
「じゅ、10分ですかっ!?するとつまり、この山を10分以内でかけ登ってこのグランドにたどり着いた者だけが、レギュラーになれる、ということですか?」
「そういうことです」
たしかに合理的だ。この過酷な現場に10分以内にたどり着けるかどうかでレギュラーが決まる、というのは、実に公平な条件である。
この先、この高校が甲子園大会に出るようなことがあったら、必ず応援することにしよう。
車がゆっくり走り出し、アトリエ村を出て坂道を下る。
アトリエ村の入り口に、小さな祠があった。
また私の中に、疑問がわいてきた。
「あの祠(ほこら)、いつ頃からあるんです?」
アトリエ村は、バブル期に造られた人工的な集落であり、昔からある集落ではない。古くからある集落だったら、その集落の入り口に祠があるというのもわかるのだが、いつのまにか誰彼となくアトリエや工房をここに造って住み始めた人たちが、何かのきっかけで、この祠を集落の護り神として作ったのだろうか、と私は想像したのである。
「私も詳しくはわかりませんが、このアトリエ村のあった場所は、高度経済成長期にもともとゴルフ場を作るという目的で造成されたそうで、その時にここにお地蔵さんを安置したそうです」
「なるほど。ではアトリエ村ができる前からすでにあったのですね」
「そうですね。ゴルフ場計画は、結局頓挫してしまうのですが、こんどはバブルのころに、この造成した場所に芸術家たちがアトリエを作り始めたんです」
「なるほど」
うーむ。アトリエ村の話は、聞けば聞くほど面白い。高度経済成長からバブル、そして今に至るまでの、この国の歴史の縮図のような場所である。
だが、アトリエ村での仕事も、今後しばらくはないだろう。
ひょっとしたら、今日が最後かも知れない。
いつか仕事抜きでこのアトリエ村を訪れて、日がな一日ボーッとしてみたいものだ。
そんな日が、来るだろうか。
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