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割腹尿検査

4月4日(土)

朝、かかりつけの病院に行く。

(今日は採血をする日だったよな)

そのつもりで行くと、

「血液検査と尿検査をします。まずは採尿をします」

と若い女性の看護師さんが言った。

えっ!尿検査をするなんて聞いてないぞ!

「あの…尿検査をするとは思わなかったんで、済ませてきてしまいました」

済ませてきた、というのも我ながらヘンな言い方だが、他に言いようがない。

「全く出ませんか?」とその若い女性看護師。

「ええ、無理です」

若い女性看護師さんは仕方がないという顔で続けた。

「では今、水を飲んでいただき、最初に血液検査をします。血液検査が終わったら、待合室で待っていて下さい。それでタイミングが来たら、また診察室に来て下さい」

タイミングが来たら、というのは、おしっこが出そうになったら、という意味であろう。

「わかりました」 水をコップ2杯ほど飲み、採血をした。

言われたとおり、いったん診察室を出て待合室で尿意を待つが、待合室でいくら待っても、尿意は催さない。

そうこうしているうち、さきに会計が終わったようで、受付カウンターで私を呼ぶ声がした。

「すみません。まだ尿検査が終わってないんです」

「そうですか」 受付の女性は不審そうな顔をした。それにしても尿意を全く催さないのはどうしたことだろう。

待合室で5分以上が経過した。

(早く行かないと診察室の看護師さんたちにヘンに思われてしまうな)

そう思った私は、尿意もそこそこに診察室に再び入った。

「おしっこ出そうですか?」

「え、ええ」

「じゃあそこの採尿室で尿をとって下さい」

見ると、診察室の一角に「採尿室」とある。端的に言えば、ふつうのトイレである。

トイレに入り、コップを手に取るが、待てど暮らせど、尿意は催さない。

5分くらいが経過した。

「採尿室」の壁は薄いようで、すぐ外の診察室にいる看護師さんどうしの会話が聞こえた。

「○○さん、まだ出てこないわね」

○○さん、とは、私のことである。

「ええ、今日は尿検査だったのに家でおしっこしてきちゃったみたいで、先ほど水を飲んでもらって、しばらく待合室で待ってもらっていたんです」

「ああ、そうなの」

ああ!今すぐここで死にたい!!!と思った。

看護師さんどうしにこんな会話をされて、俺はどんな顔をして「採尿室」から出ればいいのだ?

ますます尿意が引っ込んでしまった。

かれこれ採尿室で15分が経った。

このまま、おしっこが出るまでここに籠城し続けるか、それとも、降伏するか…。

考えたあげく、降伏することにした。

ドアを開けると、ドアの前に看護師さんが立っていた!

びっくりした!心配になって、ずっとドアの前にいたんだろうか?

「あの…すみません。また出直してきます」

「そうですか、次回は、家でおしっこをせずに病院に来てください」

「いえ、私はいまこの場で割腹しますので、もうここに来ることはないでしょう」

と、喉まで出かかって診察室をあとにした。

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コメント

イテテテテ。

目覚めると、殺風景な病室の白い天井が見えた。

どうやら生きていたようだ。

そりゃそうだ。病院で割腹したところで、すぐに手当てされるに決まっている。

しかし、こんな時でも尿意をもよおすものだ。さては、左腕につながっている点滴のせいか。

背後で声がする。女性看護師のようだ。

「○○さん(俺の名前)が目が覚めたらチューブでお小水を取ってください。お薬手帳を持っていないから、これまでどんなお薬を服用してたか分からないので、副作用を避けるために尿検査が必要なの」

「分かりました」

こんなことなら、もう15分粘って尿検査を済ませておくんだった。今は膀胱がパンパンだが、今回の検査は前回以上に恥ずかしいし、腹を切ろうにも既に縫合されている。

「○○さん、痛みますか?」

若い女性看護師が、泣きそうな俺の顔を覗き込んだ。

投稿: 生還こぶぎ | 2015年4月 5日 (日) 02時40分

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