創作落語・粗忽嘘石
えー、嘘のようなほんとの話。
横丁のご隠居さんが、暇にまかせて化石収集に凝り出しまして、集めた化石を瓦版で紹介したところ、江戸でずいぶん評判になった。
サー面白くないのが長屋の連中。このご隠居さん、何かというとすぐに長屋の連中に無理難題を言いつけるものだから、ふだんからひどく嫌われている。
そこで長屋の連中は、ご隠居さんに一泡吹かせてやろうと考えた。
おい、熊さんよ。
なんだい八っつぁん。
どうにかしてあのご隠居をギャフンと言わせたいんだが。
それについちゃあ、いいことを思いついたぜ。
なんだい?
オレたちが嘘の化石を作ってご隠居のところに持っていくのさ。
どういうこったい?
ご隠居はオレたちが作った嘘の化石を、ホンモノの化石だと信じて瓦版で紹介するだろう?あとでみんなにそれが嘘の化石だとわかったら、ご隠居は恥をかくって寸法さ。
そんなにうまくいくかい?
何が?
だってオレたちが作った嘘の化石なんて、ご隠居が簡単に見破るんじゃねえか?
もし見破ったら、ご隠居は見る目があるってことで、オレたちも納得するさ。ものは試しだ。いっぺんやってみようぜ。
というわけで、手先が器用な石工(いしく)の熊さんが、見よう見まねで嘘の化石を作ることになった。
まずは手のひらに乗るくらいの石に、鳥の骨格の形を刻んで、いかにも化石のように作ってみた。
へぇ、驚いたねえどうも。熊さんがいくら手先が器用だっていっても、まさか化石を作っちまうとはねえ。どっからどう見たって化石だ。
へへ、蛇(じゃ)の道は蛇(へび)といってね。まあものは試しだ。ご隠居さんのところへ持っていこう。…ご隠居!ご隠居!
おおぅ。誰かと思えば熊さんじゃないか。どうした?
へぇご隠居。実はあっしが妙な石を見つけましてね。ことによるとこれは化石ってもんじゃねえかと思いまして、それで化石にお詳しい隠居に鑑定していただこうと持ってきたんでやすがね…。
どれどれ見せてごらん。…ほう、これはまためずらしい鳥の化石じゃな。
鳥の化石ですかい?
ひょっとすると新発見の化石かもしれん。
ほんとですかご隠居?
瓦版に紹介してもよいかな?
もちろんですよ。ご隠居が発見されたということでかまいませんから。
数日後、新種の鳥の化石が発見されたと瓦版で紹介されて、江戸で評判となった。
ずいぶん簡単にダマされちゃったねえ、ご隠居さんも。
ことによるとご隠居さん、化石がホンモノかニセモノか、見分けがつかないのかも知れねえぞ。しかし江戸の連中もみんなニセモノに気づいてないとあっちゃ、かえってご隠居の評判が上がるばかりだぜ。
そうだな。もう少し嘘だとわかる化石を持っていった方がいいな。…今度は「生きた鳥の化石」というのはどうだろう?
「生きた鳥の化石」?
前に作ったのは、鳥の骨の化石だろ?だからそれっぽい化石に見えたが、そうじゃなくって、生きた鳥の姿をそのまま石に刻んで、化石だと言い張ればいいのさ。
いくらなんでもバレるだろ?
ものは試しだ。やってみようぜ。…ご隠居!
おおぅ、熊さん。今度は何だ?
またひとつ化石じゃねえかってモノを見つけてきました。これはいかがでござんしょ。
どれどれ…おお!これは生きた鳥の化石だ!これはまためずらしい!
「生きた鳥の化石」ですか?
そうじゃ。ほら、ここに鳥が羽ばたいている姿が見えるじゃろ。
…ということで、また瓦版で紹介されちゃった。
おいおい、ことによるとあのご隠居、化石の専門家だなんていいながら、化石のことをまるでわかってないんじゃないか?
そうだな。そろそろ嘘だと気づいてもらわないとな。
ということで、熊さんは生きたネズミの化石とか、生きた亀の化石とか、明らかに嘘とわかる化石を次から次へと作って、ご隠居さんのもとへ持っていった。
ところがご隠居さんはそれが嘘と気づかず、次々と瓦版に紹介していった。
おい熊さん。ご隠居ぜんぜん気づかないじゃねえか。
そうだな八っつぁん。いくらなんでも嘘だと気づくと思うんだが。
もっと荒唐無稽な化石を作らないと気づかないんじゃねえか?
ということで熊さん、およそあり得ない化石を作ってご隠居のところへ持っていった。
今度はどんな化石じゃ?
ほうき星の化石です。
「ほうき星の化石」?なるほど。たしかにほうき星の姿が見えるな。…で、これは?
へえ、月の化石です。
月というと、空に浮かんでいる月かい?
へえ。こちらが満月の化石で、こちらが三日月の化石です。
なるほど、たしかにこっちの石には満月の姿が見えるし、こっちの石には三日月の姿が見える。これはたまげた。さっそく瓦版に紹介しよう。
…ということでご隠居さんは、またまた瓦版に紹介しちゃった。
熊さん。さすがに悪ふざけがすぎるぜ。いくらなんでもほうき星の化石とか月の化石ってのはないだろう。
オレもそう思ったんだが、まさかご隠居さんが信じるとはねえ…。こうなったら、どんな化石を持っていったらご隠居はウソだと見破ってくれるのか、わかんなくなっちゃった。
…いい考えがあるぜ、熊さん。
なんだい?
ご隠居の化石を持っていけばいいんじゃねえか?
なるほど。それはいい考えだ。
…ということで熊さん。ついにご隠居さんの化石を作って、ご隠居さんところに持っていった。
ご隠居ー!
熊さん、今度はどんな化石だい?
ついに見つけました!ご隠居の化石です!
アタシの化石かい?どれどれ…。ほう、これはすごい。たしかにアタシだ。
あのう…ご隠居。
なんだ、熊さん。
これはご隠居の化石ですよ。ご覧になって、何とも思わないんですかい?
思わないもなにも、これは正真正銘のアタシの化石だ。
……それじゃあ、ホンモノの化石だと?
そうじゃ。しかし不思議じゃのう。いま手に持っているこれは、たしかにアタシの化石じゃが、持ってるアタシは、いったい誰だろう?
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コメント
しからば、お尻をおひねり奉る(ぎゅー)
いたたたた。
「嘘のような本当の話」というマクラから始めたのに、振りっ放しで結末につながっていないのは?
うーん。
主人公の嫌いなもの、弱点は?
うーん。
化石をモチーフに取り上げた理由は?
うーん。
因業じじいのはずのご隠居が、嘘の化石話をいとも簡単に信じてしまう素直さの理由は?
うーん。
なぜ瓦版が、何でも無批判に報道してしまうの?
うーん。
クライマックスまで同じ構造のエピソードが繰り返されるが、クライマックス前はそれまでと違う展開にしないと「破るべき殻」が破れないのでは?
うーん。
主人公をギャフンと言わせるのが敵対者の当初の目標だったが、この結末で、果たしてそれを達成したと言えるの?
うーん。
「粗忽嘘石」という題目をつけておきながら、粗忽な登場人物が一人もいないのは、作家が相当粗忽者だから?
お、お、思い出してござる。
して、お使者の口上は?
書くのを忘れた。
投稿: こぶぎの使者 | 2015年4月24日 (金) 00時38分
今回の創作落語は、実際に起きた話をもとに作ってみました。元ネタはこれです↓。
http://www.zum.de/stueber/beringer/
実話をもとに創作しているうちに、どうしてもオチを「粗忽長屋」にしたくなったので、フリとぜんぜん関係のないオチになってしまったのです。
結果的にナンダカヨクワカラナイ落語になってしまいました。
投稿: onigawaragonzou | 2015年4月24日 (金) 01時22分
うーん、やっぱりこの「化石贋作事件」のエピソードはパロディの本題にしないで、最初にマクラとして使えばいいんだ。主人公を、余りに信心深くて偽物に気づかない粗忽者という設定にして、このマクラで始めて、「堀之内」につなげるとか... いや、ご隠居も途中から偽物だと分かっていたのに引っ込みがつかなくて互いに強情を張り合ったことにすれば、「強情灸」へ持っていけるかな...
(ぴしゃ)先生、目を覚まして下さい。
な、なんだよ小林君。突然平手打ちするなんて、ひどいじゃないか。
先生、これは罠なんですよ。
え?
犯人のブログのコメント欄を書くうちに、実用性のまったくない、ブログの内容から居場所を当てる技術を開花させられたのと同じく、いつの間にか、落語台本を「診察」する腕を磨かされていませんか、先生。
そうか、確かに、こんな才能を開花させられたところで、時間ばかりかかって一銭にもなりやしない。怒ってすまなかったな、小林君。
さすが先生、すぐ怒る最近の人々とは訳が違いますね。
分かったよ。これは犯人の罠なんだ。
そうなんです、これは罠なんです。先生を「探偵業」から「脚本のお医者さん」に転職させようとするのが第一の罠、そして創作落語の形を借りて犯人の職場イベントの宣伝をしているのが第二の罠...
サブリミナル効果かよ、全く。おかげで危うく騙されるところだった。
しかし、偽物ネタを扱った落語台本自体が真っ赤な偽物とは、今回の犯人のトリックはたいそう巧妙だな。
ひょっとして、今回は犯人自身も偽者だったりして。
投稿: 明智こぶぎ郎 | 2015年4月24日 (金) 18時16分
さすが、すべてお見通しだな、明智こぶ郎君。
しかし正直に言うと、創作落語を作るのはとても疲れる。寝不足になる。苦労して作っても、さほど面白いものにはならない。落語の中にいろいろな「意味」を込めすぎるから、わけがわからないものになるのだ。
また気がむいたら創作ものを書くことにするよ。そのときまで、スクリプトドクターの腕にさらに磨きをかけてくれたまえ、明智君。
投稿: onigawaragonzou | 2015年4月25日 (土) 09時39分