二つの再会
5月4日(月)
いちばん嬉しいことは、卒業生から連絡をもらうことである。
1週間ほど前だったか、東京で勤めている卒業生のOさんからメッセージが来た。
5月4日にCさんが東京に来るので、ぜひ先生ともお会いしたい、というのである。
OさんとCさんは、私がひそかに「詰めのあまい学年」と呼んでいる学年の二人で、私が前の職場を去るときも、二人で送別会を開いてくれた。
久しぶりに二人に会えるのは、願ってもないことである。
夜9時過ぎに、Cさんは東京駅から新幹線で帰るということなので、東京駅の近くで夕食を食べましょうということになった。店はOさんが予約した。
東京駅の八重洲北口を出て少し歩いたところに、そのお店があった。最近全国にチェーン店展開をしている居酒屋である。
二人は、前日まで金沢に観光に行っていたとのことで、金沢での珍道中の話や、最近の仕事の話を聞かせてくれた。
いつも思うのだが、卒業生から仕事の近況を聞いたりすることが、いちばん楽しい。
三人で話し込んでいると、やたらとアルバイトの店員さんが話しかけてくる。
「あのう…このお店は初めてでしょうか」と店員さん。
私とCさんは、初めてだった。
「では、当店の名刺をお配りします。今日からお客様は、当店の主任です!」
この居酒屋には、風変わりなシステムがある。来店した客に名刺を渡し、肩書きは「主任」から出発。その後、来店するたびに課長、部長、専務、社長と、出世していくというシステムらしい。
ナンダカヨクワカラナイが、人生ゲームのようなものか?
また話し込んでいると、しばらくしてまたアルバイトの店員さんが話しかけてきた。
「あのう…今日はみなさんでどちらかに行かれたんですか?」と店員さん。
「いえ、久しぶりに再会したんです」
「そうですか。失礼ですけど、三人はどのようなご関係ですか?」
ずいぶん立ち入ったことを聞くものだ。
「大学時代の先生に、卒業後にこうして再会したんです」とOさん。
するとアルバイトの店員さんは驚いた顔をした。
「大学時代の先生と、大型連休に再会されるなんて、いいですね。私、実はまだ大学生で、大学の教授というと、ほとんど身構えてしまうんですけど、卒業後もこうやって一緒に飲みに行けるなんて、素敵です」
「だって、私たち三人は『友達』ですから」とCさん。
友達です、という表現に、思わず吹き出してしまった。
たしかにOさんやCさんとは、「友達」であるとしか表現のしようがない。
店員はひとしきり根掘り葉掘り聞いたあと、どこかへ行ってしまった。
「ここの居酒屋はずいぶんと店員が話しかけてくるねえ」
「どうもそういうシステムみたいです」
さて、ひとしきり話が終わり、帰ろうとすると、さっきのアルバイトの店員さんが「デザートです」といって、大きな皿を持ってきた。
皿を見てびっくりした。
そこには、気恥ずかしいくらいのメッセージがチョコレートを使って書かれていた。
卒業しても今日のように集まるのは
とてもステキなことですね」
そうか、さっき私たちにやたらと話しかけてきたのは、皿にメッセージを書くための「取材」だったのか…。
ただ、「生徒」を「生従」と書いているのはいただけない。
それに大学の場合、「生徒」ではなく「学生」である。
一番下に描かれている私の似顔絵も、どうだろう…。
しかし、短い時間でこうした絵皿を作る力量には、感心した。
たしかに、せっかくの大型連休に、卒業生が大学時代の指導教員を呼び出してお酒を飲む、というのは、通常ではなかなか考えにくいことだろう。
「不思議ですよねえ」とOさん。「先生の場合、先生にハマる学生とそうでない学生がはっきりしていたんです。ハマる学生はこうしてなんでも話せますけど、ハマらない学生は、ぜんぜん寄っても来ませんよね」
「そうだね」と私。「たとえて言うなら、私は独特の周波数を出していて、その周波数が聞こえた人だけが、私のところに寄ってくるんだと思う。言ってみれば『犬笛』みたいなもんだ」
つまりは、同じ価値観を持つ学生たちが自らの嗅覚で集まってくれる、ということなのだが、このわかりにくいたとえに、二人はわかったようなわからないような顔をした。
「おかげで、私は実にやりやすかった。だって周りは価値観が一緒の学生たちばかりだったんだもん」これは私の本音である。
あっという間の3時間だった。
再会を約束して、東京駅でお別れした。
さて、話はここで終わらない。
夜9時半過ぎ。東京駅。
東京に転勤になった、高校時代の友人のコバヤシに電話をかけてみた。
「もしもし」
「もしもし、どうした」
「どうということはないんだが…。いま東京駅にいてね」と私。
「偶然だねえ。俺はいま、有楽町付近を歩いている。
「じゃあ近くだなあ。いまからそっちへ行くわ」
ということで、急遽、高校時代の友人、元福岡のコバヤシと、有楽町で飲むことになったのである。
1時間という約束で、飲みながら話したが、福岡の仲間たちと別れたときの話が、けっこう感動的だった。
最後の最後、コバヤシは自ら率いるジャズバンドの「さよならライブ」を、あるライブハウスでおこなった。
すると、50人もの仲間が、聴きに来てくれたという。
昔から人見知りの激しいコバヤシだったが、それでも50人もの人が、彼の「さよならライブ」に駆けつけてくれたというのは驚きである。
福岡という土地を、大切にしてきたからこそだろう。
「お前、転勤のこと、ブログに書いてくれたよな」とコバヤシ。
「ああ」
「あれを読んで、泣いちまったよ」
「そうか…。だって俺も1年前に同じ経験をしているもの」
「そうだよな」
あっという間の1時間だった。
あわただしかったが、二つの再会は、私にとって「有り難い(めったにない)」幸運だった。
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