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前口上

5月12日(火)

明日から2泊3日で韓国出張だというのに、なかなか荷造りをする気が起こらない。

こういうときに限って、全然関係ない本を読んでみたくなる。

松本清張の短編小説「日光中宮祠事件」を読んでいたら、こんな表現にぶつかった。

「唐突なことをここに書くようだけれど、私は以前から岡本綺堂の「半七捕物帳」の愛読者である。いわゆる捕物帳ものは、「半七」以外には認めていない。ことに半七老人の前書は絶妙である。江戸の古い姿を伝える饒舌(おしゃべり)につづいて、

あいかわらずわたくしのお話は長くって、ご退屈かもしれませんが、いつもの癖だと思ってお聞き流しを願います嘉永六年十二月初めの寒い日でした…』

というような語り口は、心にくいくらい巧い。」

松本清張が他の作家の小説を引用して、そこから話を展開していくのはよくあることで、私が好きなスタイルなのだが、この小説では、半七老人が昔話を語るという「半七捕物帳」のスタイルをまねて、ある刑事が事件を述懐する形で、話が進んでゆく。言ってみれば、この小説で松本清張は、「半七捕物帳」の語り口をまねたのである。

私は、松本清張が引用したこのたった2,3行の前口上で、すっかり「半七捕物帳」が読みたくなった。

この前口上は、「半七捕物帳」の、どのエピソードに出てくるのか?

調べてみると、「半七捕物帳」第61話「吉良の脇指」の中に出てくる前口上だとわかった。

あいかわらずわたくしのお話は長くって、ご退屈かもしれませんが、いつもの癖だと思ってお聞き流しを願います。」

私のよく書くクドい文章の前口上としても、そっくりそのままあてはまる。

語り口が心地よいので、韓国から戻ったら、少しずつ「半七捕物帳」を読み進めていくことにしよう。

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