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大型連休のひととき

5月2日(土)

大型連休のひととき、いかがお過ごしですか。

TBSラジオ「荻上チキ セッション22」で、公共放送の経営委員会について特集している回(4月8日)が、地味な内容だったが私にとっては面白かった。

内容は、経営委員会の前経営委員長代行の法律学者をゲストに呼び、ジャーナリストの神保哲生氏とともに経営委員会の実態について聞くというものだった。ゲストの法律学者は都内の有名私立大学の教授である。

公共放送の経営委員会の構成員は、外部有識者の12人からなる。公共放送の最高決定機関であり、公共放送の会長人事も経営委員会が決定する。

大学でいえば、「研究教育評議会」と「経営評議会」と「学長選考会議」を兼ねている組織である。公共放送の場合、内部の委員が一人もいないというのが特徴である。

番組の中では、なぜあのような問題のある会長が選出されたのかに焦点が当てられた。

ニュースでも明らかにされているように、会長は明らかに政権寄りの発言をして、物議を醸していた。

しかし放送法によれば、放送局は「不偏不党」でなければならない。何人からも干渉されることはないとある。

そのために、公共放送の最高決定機関である経営委員会の構成員は、「政府任命人事」ではなく、政府が指名し、国会による同意を必要とする、いわゆる「国会同意人事」によっている。

経営委員を政府任命人事とした場合、構成員は政府寄りの委員が選ばれる可能性が高い。だが、経営委員会は、公正・中立の立場から、時の政府に左右されないことが重要であり、そのためには、与党のみならず野党も意志決定に参加できる「国会同意人事」がふさわしい。

すなわち「国会同意人事」であることをもって経営委員会の「不偏不党」が担保されてきたのである。

前経営委員長代行の法律学者は、ラジオの中で再三その点を強調した。

経営委員全員が、会長の候補となる人物を推薦する権利がある。ある経営委員が、会長となるにふさわしいと思われる人物を推薦し、経営委員会で協議の上、会長となる候補者を決定する。

問題となった会長も、所定の手続きに従って経営委員会が決定したものであり、手続き上は何ら問題がなかったと、その法律学者は述べた。

にもかかわらず、なぜあのような発言をする人物が、公共放送の会長になり得たのか?

ジャーナリストの神保哲生氏は、会長決定の手続きそのものを見直すべきではないか、と主張した。会長候補者決定に至る透明性が確保されていないことや、経営委員の国会同意による任命というシステムが、実際には多数派の与党により強引に押し切られていることに問題があると指摘した。従来は全党一致での国会同意が慣習的であったものが、最近の実態はそうではなくなっているというのである。ジャーナリストは「国会同意人事」そのもののあり方を問題視したのである。

これに対して前経営委員の法律学者は、あくまで「政府任命人事」と「国会同意人事」とは、まったく異なる理念であることをあらためて強調し、「国会同意人事であると規定している以上は、与党だけではなく野党を含めた意志決定が重要であることは論理的に当然である」と繰り返した。

私には、ジャーナリストと法律学者の意見が同じ方向を目指しつつも、あまりかみ合わないまま終わってしまったように聞こえたのであるが、この感覚、どこかで身に覚えがあるなあと思い返したら、以前に似たような経験をしたことがあることを思い出した。

むかしむかし、職場のある規定作りに参加したときに、どのような文言を盛り込むかといったことが、部局の利害対立もからんで当然議論になっていったわけだが、私の上司で、その規定のとりまとめの責任者だった法律学の先生が、「ここに○○という表現を盛り込むことで、論理的にはこうなる」的な言い方で規定作りを進めていったという記憶がある。

具体的なことは忘れてしまったが、そのとき私は「実質的な意味を持たせる規定を作るはずだったものが、いつのまにか法解釈の問題や手続き論にすり替えられてしまったなあ」と感じたのだった。

そのことにとどまらず、その分野の人々に日常的にふれていく中で、自分のアイデンティティとなる学問分野の作法は、その人のプライベートな思考様式にまでも影響を与えることを痛感したものである。もちろん自戒も込めてである。

ラジオを聴いていて、そんなことを思い出したのである。

ラジオに出てきた法律学の先生は、お話を聞く限り、おそらく公共放送の経営委員の中では突出した良識派で、リベラルなお考えをお持ちの方だと推察された。

しかしその一方で、三谷幸喜脚本のテレビドラマ「合い言葉は勇気」の最終回で、民事裁判の法廷が閉廷されたあと、人権派の弁護士(杉浦直樹)が、大企業の顧問弁護士(津川雅彦)に言う、

「相変わらず君の言葉は正確だが、実に冷たい」

というセリフも、合わせて思い起こされたのであった。

さて、話をもとにもどすと、「国会同意人事」が「不偏不党を担保する」という法解釈じたいが、実は曲者である。

たとえ法解釈上はそうであったとしても、権力はいとも簡単に、そんな論理性や法解釈などをなきものにしてしまう。

理論武装は必要だが、十分ではないことを思い知らされるのである。

では、よい大型連休をお過ごしください。

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