ラジオに救われる
6月2日(火)
TBSラジオ「荻上チキ・セッション22」のポッドキャストを聴く。
5月29日(金)放送の「自衛隊の過酷な実態」は、実に衝撃的な内容だった。
海外に派遣されていた自衛官の54人が自殺していたことが明らかになった。なぜ、自衛隊では自殺者が多いのか?
その背景には、自衛隊の過酷な実態があったと、ジャーナリストの三宅勝久さんは言う。
そこには、組織に巣食う恐るべき「パワハラ」や「いじめ」の実態があった。
まるで野間宏『真空地帯』の世界が、現代にもまだ生きているようである。
上官の命令に逆らえない。
逆らうと、組織の中で居づらくなる。
ときには暴力的な制裁も受けることがある。
仕方なく、上官の理不尽な要求に応えなければならなくなる。
こうして、弱い者が自殺に追い込まれてしまうのである。
だが、どうして自殺に追い込まれてしまうのか、公式的にはまったく明らかにされていない。
いったい自殺した自衛官は、どの部隊にいたのか?原因は何だったのか?
取材をしても、「プライバシー」という理由で、具体的なことは何一つ明かされないのである。
これでは、隠蔽と言われてもしかたがない。
自衛隊で起こっていることは、どの組織でも起こりうる「パワハラ」である。
他人事だと思って聴いてはいけない。
自衛隊が特殊な組織だから、そのような極端な「パワハラ」「いじめ」が横行するのか?
「学校」は「自衛隊」とは違うと、本当に言い切れるのか?
学校だって、自衛隊と同じように、社会の目が届かない閉鎖的な組織であることに、変わりはないじゃないか。
そして学校の中にも、厳然とした序列があるのだ。
社会の目が届かない閉鎖的な空間の中で、パワハラやいじめが起こりやすいことは、これまでの多くの事例からも明らかである。
学校が常識的な組織で、自衛隊が非常識な組織なのか?そんなことはないだろう。
自衛隊で起こっていることは、学校や会社でも起こりうることなのである。
だから決して他人事ではないのだ。
自衛隊は今後、法律の改正によってますます危険な状況に置かれることになる。
国会でも、自衛官の自殺の問題について野党から懸念する意見が出された。
これに対する政府側の答弁は、自衛官の自殺を、組織ではなく個人の問題に矮小化させるものだった。
構造的な問題を、なきものにしたのである。まるで学校に「いじめ」は存在しないと言わんばかりに。
政府側のこの答弁は、この国において私たちの生命や人権が脅かされることを憂うに十分な材料である。
さて、この番組の中でいちばん印象的だったのは、電話出演した岡田尚さんという弁護士の方だった。
岡田さんは、これまで多くの自衛官の訴訟や相談を受けてきたという。
なかでも大きく報道されたのが、「海上自衛隊『たちかぜ』自殺訴訟」である。
護衛艦「たちかぜ」に配属された若き自衛官が、わずか10カ月で自殺してしまったこの事件。なぜ彼は、「たちかぜ」に配属されたとたん、追い詰められてしまったのか?
背景には、艦内における壮絶ないじめがあったことが明らかになったのである。
岡田さんは、そのいじめの実態を丹念に明らかにしていく。そしてその語り口は、実に論理的で明快である。
訴訟は、一審では敗訴したが、二審では訴えが認められた。
「たちかぜ判決」以降、自衛隊内部で相談のシステムが作られるようになったという。
だが、岡田さんはこれを懸念している。次の発言が特に印象的である。
「ただ結局、自衛隊内部の救済機関は、そこに相談に行っても、本当にその人の立場になってさまざまなことを考えたり手立てを講じたりするのがどうしても難しいんですよね。そこに相談に行ったら、『こんなことくらいで何言っとるんだ!』とか、あるいは『こういうことを相談してきたら、お前自身の評価が下がるぞ!』とか、そういう対応がいまでもあるわけです。
私は、内部の中にそういう救済機関があるのがよくないとは言いません。パワハラに対する意識を内部の中にちゃんと植え付けていくシステムは必要です。ただそれですべてが解決するわけではありません。これは構造的な問題ですから、自浄作用で何とかなるということはありません。やはり外からの救済ネットワークみたいなもので中を変えないといけません。
『一人二人の悪いヤツがいた。だからコイツがいじめた。
一人二人のいじめられそうなヤツがいた。だからコイツに集中した』
そういう問題じゃないんですよね。
これは構造的な問題ですから、内部の自浄作用とか意識改革だけでは本当の意味での救済にはならないだろうと思います」
岡田さんのこの発言に私が感動したのには、理由がある。
前の職場で、パワハラやセクハラの規則作りに参加したことがあった。
このとき、さまざまな部局の人たちと議論をたたかわせたのだが、実は私の主張は単純だった。
「外部の相談員体制を充実すべきである」
この1点である。
理由は簡単である。部局内でいくら相談窓口を設けたとしても、部局の利害が優先され、相談をうやむやにされたりもみ消されたりする恐れがあるからである(実際そういう事件が起こっていた)。そもそも相談する側は、その部局内でパワハラを受けているかぎり、その部局に対して信頼はしていないものである。
だから、利害関係のない、外部の相談員体制が絶対に必要なのである。
ところが、である。
この私の主張は、当時誰からも理解されなかった。というか、ほとんど気にとめられることなく聞き流された。
ただの一人も、理解者はいなかったのである。
今に至るまで、「外部の相談員制度の充実」は実現していない。
私の主張は、間違っていたのだろうか?
取るに足らない主張だったのだろうか?
そのことでずいぶん悩んだ。
だが私は、ラジオでの岡田さんの発言に救われた。
私が考えていたことは、岡田さんが自衛官の相談を通じて体得した結論と、同じものだった。
私の主張が理解されなかったのは、私の主張が間違っていたからではなかったのだ!
私はラジオを聴きながら、共感できる人がいたことに感謝したのである。
残念だったなあ。
もう3年ほど早く、岡田さんのこのお話を聞いていればなあ。
絶対に、職場のハラスメント防止講演会の講師としてお呼びしたのに。
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