腰痛現場主義
6月17日(水)
朝、在来線特急で3時間ほどかけて、ある町へと向かう。
昨年だったか、私の本を読んだという大工さんから突然電話がかかってきて、「ぜひいちど現場に来てください」と言われたのだった。
「はいわかりました」と言ったものの、忙しかったこともあり、なかなか行くきっかけがつかめなかった。
先々週だったか、その大工さんから、連絡をいただいた。
「そろそろ現場が佳境ですので、ぜひ見に来てください」
ということで、今日、日帰りでその現場を見に行くことにしたのである。
昨日の重苦しい会議がすっかりとストレスになり、朝から腰痛がひどかった。かがむことはもちろん、歩くこともしんどかったが、だが休むわけにはいかない。
10時半、3時間かかってようやく目的地の駅に着き、大工のSさんの車で現場に向かう。大工のSさんは、アラ還くらいの年齢のオジサンである。
Sさんとは初対面だったが、とても物腰が柔らかく、それでいて気さくな方だった。
いつも思うのだが、職人さんは、意外と物腰が柔らかい人が多くて、初対面であっても、話していて安心する。経験に裏打ちされた職人さんのお話は、実に的確で、わかりやすい。
道を究めた人のお話というのは、面白いのだ。
話術だけが、話を面白くするのではないことを、痛感する。
午前中、現場事務所であれこれとお話ししていると、私がこれまで手がけた仕事と、Sさんがこれまで手がけた仕事が、いろいろなところでつながっていたことが判明して、実に不思議な気持ちになる。
初対面なのに、まったくそれを感じさせないのは、そういう目に見えない「縁」のようなものがあったからではないだろうか。
昼食後、
「では現場に行きましょう」
とSさん。
「現場はどこですか?」
「この山の上です」
「じゃあ今度は、足場に登りましょう」
足場が組んであって、その足場を、上に行ったり下に行ったりして、現場をくまなく歩く。
何層にもわたって組まれている狭い足場を上へ下へと歩き回るのは、汗かきで腰痛のデブにとってはかなり至難の業である。
(イタタタタタタ…)
腰は痛いし、汗は滝のように流れてくるしで、心が折れそうになったが、Sさんと現場でお話しするうちに、次第にいろいろなことがわかってきて、実に有意義な取材になった。
山の上の現場から、再び下の現場事務所に戻る。川に落ちたような汗の量になった。
「今日はありがとうございました。やっぱり現場に来てみないとわからないことがたくさんありますね」と私。
「こちらこそありがとうございました。こうやってお話ししてみると、いろいろなことがわかってきたりして面白いですねえ」とSさん。
短い時間だったが、本当に有意義な取材だった。
こうやってこれからも、日本中を旅して、そこでお会いした初対面の人にいろいろとお話を聞いて、そんな感じで一生を過ごせたら、どんなに楽しいことだろうと、こういう調査をするたびに思う。
ただし今回の取材でひとつわかったことは、私は大工の孫にもかかわらず、大工に向いていない、ということである。
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