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図太い奴、危険な賭け

子どもの頃見たドラマで、いまだに鮮烈に記憶に残っているものがある。

小学生の頃に見た、テレビ朝日の土曜ワイド劇場で放映された「図太い奴、危険な賭け」というタイトルのドラマである。

小学生の頃、土曜日の夜9時といえば、TBSの「Gメン75」か、日本テレビの「土曜グランド劇場」のどちらかを、必ず見ていた。だから「土曜ワイド劇場」を見ることは、ふつうはありえなかった。

にもかかわらず、このドラマを見たのは、理由がある。

それは、主演が坂上二郎だったからである。

小学生の頃の私は、二郎さんのファンだった。とくに、坂上二郎が人情派刑事を演じたTBSテレビの「明日の刑事」というドラマが好きで、毎週見ていた。

その二郎さんが、土曜ワイド劇場に主演するというのを知って、この2時間ドラマを見ることにしたのである。

しかもその役柄は、ふだん二郎さんが演じている「善人」ではなく、「悪人」だったのである。

それは、こんな内容だった。

町の小さな散髪屋を切り盛りする男(田村亮)のもとに、ひとりの客(坂上二郎)が訪れる。ヒゲをあたってくれという。

客のヒゲを剃っていると、客は散髪屋の男にあることを言う。

その客は、散髪屋の男がかつて犯した、ひき逃げの一部始終を目撃したというのである。

それからというもの、毎日その客は、散髪屋にあらわれた。

そしてヒゲを剃るたびに、客はひき逃げのことを言って男をゆする。男は、客に金を渡すようになる。その額もどんどん高額になってゆく。

毎日毎日、ヒゲを剃りにやってくる、悪魔のような客。

ついに男は、たえきれなくなり、ヒゲ剃りの途中、カミソリで客の頸動脈を切ってしまう。

客は男に「俺が動いたせいだと言え」と言って、死んでしまうのである。

男は殺人の罪には問われず、業務上過失致死で執行猶予付きの有罪となった。

その後、男のもとに、殺された客の妻が訪れ、その客が男に宛てた遺書を渡す。

遺書には、

「自分は役者だが、仕事がなく食べていけない。妻と子どもに生命保険を残すために、誰かに殺されるしかないと考えた。そこで、たまたま目撃したあなたの事故を利用させてもらった。いままで何をやっても下手な役者だったが、あなたの前では最高の演技を見せることができた。いままでゆすり取った金はすべてお返しするので許してほしい」

と書いてあり、いままでゆすり取られた全額が同封されていた。

…という内容である。

このドラマが、すごく面白かった。

なにより、坂上二郎の演技が、じつによかったのである。

もともと善人の売れない役者が、散髪屋の男の前では悪役を演じる、というドラマの設定が、「もともと善人役が多い坂上二郎が悪役を演じる」ことと重なって、虚実皮膜の面白さを生み出していたのだ。

あとで調べてみると、このドラマは1978年に土曜ワイド劇場で放送されたとあるから、私がなんと小学校4年のときである!

で、「図太い奴 危険な賭け」で検索をしてみると、このドラマが好きだったという人が、かなりいるということがわかった。

やはり、多くの人の心に残ったドラマだったのだ。

このドラマの原作は、西村京太郎の「優しい脅迫者」という短編小説である。

私は西村京太郎の小説をほとんど読んだことがない。西村京太郎といえば、十津川警部シリーズといった、シリーズものがまず頭に思い浮かぶていどである。

このドラマの原作も読んでいないのだが、西村京太郎は、実は短編の名手だったのではないだろうか、と想像する。

やはり昔見た、円谷プロ制作のドラマ「恐怖劇場 アンバランス」シリーズの一作、「殺しのゲーム」の原作も、西村京太郎の同名短編小説だった(こちらの方は文庫化されている)。これもまた傑作である。

これから少しずつ、昔の短編を読んでいくことにしよう。

そして「図太い奴 危険な賭け」のDVD 化を、強く希望する。

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コメント

ただただ同感の一言

投稿: こいち | 2021年5月26日 (水) 20時13分

1978年といえば、私が7歳のとき。
昼下がりに観た記憶があるので、再放送だったかもしれませんが、
坂上二郎さんの演技に恐怖を感じた記憶があります。
名作です。DVD化を私も希望。

投稿: 元・弘前フリッパーズ | 2021年10月16日 (土) 14時10分

たしかに、昼下がりに再放送をしていましたね。僕も記憶にあります。

投稿: onigawaragonzou | 2021年11月 3日 (水) 23時57分

懐かしさについ読んでしまいました。
このドラマを好きだった方がたくさんいて嬉しいですね。
えと、少し内容を訂正させてください。
最後に遺言状を持ってきたのは犯人の妻ではありません。
理髪店の主人が雇った興信所(探偵事務所)の探偵さん(女性)です。
理髪店の主人は男の正体を探るべく、探偵を雇って逆に男を調べさせたのです。
その過程で「男が売れない時代劇役者である」こと、探偵が尾行中に「車に轢かれそうになった女児を助けて怪我をした」ことなどを知り、そんな善人がなぜ自分を脅しているのかと疑問が生じます。
そして男が理髪店の事故?で死んだ後に探偵が彼の妻を訪ねた時に、妻宛の遺言状の中に入っていた「探偵宛の遺言状」を受け取り、理髪店の主人に今まで脅し取った金を返すついでに事情をすべて話してほしいと頼んだのです(実はドラマの途中で探偵さんの正体が男にバレてしまうのです)。
最後に理髪店の主人に渡された告発状の最後に書かれていた「返金する金の総額」のさらに最後に書かれていた『うち、髭剃り代◯◯円(金額忘れました。おそらく3000円行かなかった少額だったと思います)』という文章が未だに私の心の中に響いています。

投稿: とみづも | 2021年12月 8日 (水) 19時33分

ああ、また思い出してしまった。
理髪店の主人が男の脅しに耐えきれなくなって頸動脈を切ってしまった後、店に入ってきて腰を抜かしたお客さんに向かって『私が動いたんだ…私が…』と言って微笑みながら死んで行ったシーンが哀しくて目に焼き付いてます。
語りたいことがたくさんあり過ぎて困る!
長文、連文、失礼をいたしました(土下座)

投稿: とみづも | 2021年12月 8日 (水) 19時37分

とみづもさん、私の曖昧な記憶を補っていただきありがとうございます。
最後の場面で、坂上二郎自身による手紙の朗読とともに、坂上二郎扮する役者の遺影が映し出されていた記憶があります。

投稿: onigawaragonzou | 2021年12月10日 (金) 00時44分

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