誰が響刑事を嗤うのか
6月23日(火)
刑事ドラマ「Gメン75」のうち、1976年に放映された「東京-沖縄 縦断捜査網」「暑い南の島 沖縄の幽霊」「沖縄に響く痛恨の銃声」は、本土復帰して間もない沖縄を舞台にした三部作で、「Gメン75」シリーズの中でも屈指の傑作である。
沖縄が本土復帰をはたしてからまだ4年しかたっていないという「リアルタイム」に、このドラマが制作されたのだが、実にストレートに、戦後の沖縄の苦悩が描かれており、見ていて切なくなる。
すごいと思ったのは、ドラマの中で、公然と米国批判が行われているということである。このドラマでは、米兵が徹底的に悪人として描かれている。いまではとてもこのような表現はできないだろう。
しかも批判の矛先は、米国だけではなく、沖縄に対して無知で無邪気な本土の政府官僚に対しても向けられている。
批判することを自粛しているいまのテレビ局の状況では、決して放送できない内容である。
印象的なのは、事件を追って東京から沖縄にやってきたGメンの女刑事・響刑事(藤田美保子)と、地元沖縄の安仁屋刑事(川内民夫)との会話である。
東京からやってきた響刑事は、戦後の沖縄が置かれてきた状況を、まったく知らない。
米軍の占領下だったころの沖縄で、二人の沖縄の女性が二人の米兵により強姦される事件が起こったが、米国の軍事法廷は、無罪の判決を下した。
その事実を知った響刑事は、なぜそのとき沖縄の警察は彼らを逮捕できなかったのかと、安仁屋刑事に詰め寄るのである。
響「二人とも裁判にかけられなかったんですか!あなたがた沖縄の警察は二人の米国人を逮捕しなかったんですか!」
安仁屋「君は何も知らないようだ。4年前ここは、米軍の占領下にあったんですよ」
響「それにしても…」
安仁屋「本当に何も知らないんですね。君は」
響「……」
安仁屋「当時米軍関係者が犯した事件は、小さな交通事故一つにしろ、沖縄人が処理できず、米軍のカーテンの彼方に持ち去られてしまったんです。だからカーテンの中で行われた軍事裁判が、どんなインチキなものか…。本土の人間にわかるはずがない!」
響「……」
安仁屋「あなたは、高等弁務官布令第23号というのを知っていますか?」
響「…(首を横に振る)」
安仁屋「1959年に、この沖縄は当時は琉球といったが、われわれ沖縄人を縛りつけるために、アメリカ高等弁務官が出した刑法です。その9条の(イ)にこう書かれている。
『合衆国軍隊の要員である婦女を強姦し、また強姦する意志をもってこれに暴行を加えた者は死刑』
我々沖縄人が、アメリカの軍人の妻や娘に暴行すれば死刑。逆に、アメリカの軍人が沖縄の女に暴行しても無罪。これほど沖縄民族を馬鹿にし、蔑み、公然と人種差別をうたった刑法がどこの世界にあるんですか!」
私はこのドラマで初めて、高等弁務官布令なるものの存在を知った。
東京のエリート刑事である響刑事は、沖縄のことをまったく知らない、浅はかな刑事として描かれている。その様子は間抜けで滑稽ですらある。
しかし私は、無知な響刑事を嗤うことはできない。
あの無知で浅はかな響刑事は、私の姿でもあるのだ。
いったい今、どれほどの人が、響刑事を嗤うことができるのだろうか?
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