コバヤシのいない福岡
7月26日(日)~27日(月)
福岡の話題を書いて、高校時代の友人・元福岡のコバヤシが登場しないのはどうにも淋しいという読者がいるのではないか。
ご安心を。日曜日、福岡に着いてから、いまは東京在住のコバヤシにメールをした。
「またまた福岡出張です。
問題は福岡での晩飯ですが、1人で気軽に入れて、魚が美味しくて、値段が良心的で、日曜日も開いている、そんなような店はないですかねえ?」
考えてみれば、ずいぶんわがままな質問である。いくらコバヤシの福岡での生活が長いといっても、この質問は、かなりの無茶ぶりだと、われながら思う。
だが、こんな傍若無人な質問ができるのは、コバヤシに対してくらいなものである。独り身なので状況にお構いなく気安く聞けるのである。
ほどなくして、「またまた当日ですか~」というタイトルで返信が来た。
「福岡、羨ましいですね。ところで、自炊派だったので、安くて美味い魚というのは少し悩ましいのですが、満足行くかどうかは微妙ですが、下記でいかがでしょうか?いずれもカウンターがあるので独りでも大丈夫でしょう」
このあとに、4つの店名が列記され、それぞれについて懇切な解説が書かれていた。
「なお私であれば、時間の余裕があれば唐津の寿司屋に行きますが」とも書かれていた。
そして最後にこう結んでいた。
「毎度のことではありますが、相談は当日ではなくお早めに」
いつも直前になってメールをしてくることに、さすがに呆れたらしい。
しかし私がこれほど我が儘に振る舞えるのは、コバヤシくらいしかいないのだ。
さて、ホテルにチェックインしてから、紹介された4つの店をインターネットで調べてみたが、どうも一人で入るのは気が引ける。
結局、コバヤシが紹介してくれた4つの店のどこにも入ることをあきらめ、ホテルの近くのやきとり屋さんで晩飯をすませることにした。
翌日、コバヤシに返事を書いた。
「昨日紹介いただいた店は、ネットで調べてみて、一人で入る勇気がなく、結局ホテルの近くの焼鳥屋に行きました。やはり1人だと焼鳥屋が気兼ねなくてよいです。お騒がせしました」
なんともわがままな友人である。私は。
せっかく相手に苦労してもらって、お店を紹介してくれたにもかかわらず、それとは全然違うお店に行ったのである。
コバヤシからしてみたら、「俺の言うことなんか聞きゃあしねえ!」という気持ちだろう。
実際、いままでもこんなことばかりだったのだ。
ちなみに、私は妻に対してもアドバイスを聞かない傾向にあり、しばしば妻に呆れられる。
つまり、妻とコバヤシに対して私は、「聞く耳を持たない」人間なのだ。ひどい人間だなあ。
コバヤシから返信が来た。
「そうでしたか。まあ、私もひとり飯は苦手なので気持ちはわからんでもないですが。でも、たまに勇気をもって入ってみると良かったりもしますが…。しかし、焼き鳥でよかったんなら、たとえば前に連れていった「もつ串煮込み屋」で最初に飲み、締めでとんこつラーメンと餃子というB級コースもアリだったかも知れませんね」
やはり、「どうせ俺の言うことを聞きゃあしねえ奴だ」と呆れている様子である。
最後に、今回の私の出張先が福岡県O市であることに対する返事も書かれていた。
「ところで、O市は去年の夏に、バンドのメンバーに連れられ近くの温泉に行ったあと、零戦記念館を訪ねた記憶があります。何年か前には花火大会に行きました。まあ、どうでもいい話ですが。
…と、どうも九州ネタを振られると、未練がましくつい冗長になってしまいます。失礼しました。ではまた」
この最後の部分で、コバヤシの、福岡に対する思いというのが、よくわかる。
わざわざこんなことを私に書いてきたのも、あるいは、バンドのメンバーたちとO市に行った思い出に対して、ある「感慨」や「感傷」があるからも知れない。
いずれにしても、昔からコバヤシのことをよく知る私からすれば、福岡に対するこうした愛着というか、未練というのは、実に意外である。
もともと彼は、人や土地に対して、あまり執着しない人間である。
幼い頃、転勤族だった父親の都合で、あちこちに引っ越しをしていたことが関係しているのかも知れない、と以前は思ったものである。
しかし彼にとって福岡は、執着せずにはいられない町なのである。
「どうも九州ネタを振られると、未練がましく冗長になってしまいます」
という一文に、それがよくあらわれている。
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