真夏の世界遺産
7月26日(日)
1泊2日の福岡出張。
前日、少し早めに到着したのは、福岡市内の博物館でやっている「山本作兵衛展」を見に行くためである。
とにかく暑い。
博多のバスセンターに行くと、自分が乗るバスの乗り場が長蛇の列である!
それも若い男女が多い。
(何かイベントでもあるのかな?)
バスセンターは、建物の中にあるにもかかわらず、冷房がいっさい効いていないため、並んで待っていると蒸し風呂状態である。
15分ほど待って、ようやくバスがやってきたが、乗客はすし詰め状態である。
よりによって何でこんな暑い日に、さらに暑い思いをしなければならないのか?
まったくついていない。
乗客のほとんどは、「ヤフオクドーム」という、聞いたことのない名前の建物前の停留所で降りた。
きっと何かのイベントがあるのだろう。
バスはようやく博物館前に到着した。すでに汗だくである。
さて山本作兵衛は、筑豊の炭鉱の様子を描いたことで知られる炭鉱画家である。自らも炭鉱労働者であった。
山本作兵衛の作品は、数年前に世界記憶遺産に登録されたが、この事実は、ほとんど知られていない。
あとから聞いたところでは、山本作兵衛の作品が世界遺産に認定されたとき、地元の人たちもそのことを知らず、ビックリしたのだという。
私も恥ずかしながら、つい最近、山本作兵衛という画家の名前を知った。
山本作兵衛は、炭鉱労働を辞めた後、筑豊の炭鉱の様子を、記憶をたよりに描いた。つまりすべては記憶画である。
現在、当時の炭鉱のほとんどは、当時の状態をとどめていない。
つまり、当時の炭鉱の様子を知ることのできるよすがとなるのは、山本作兵衛が書いた膨大な量の「記憶画」なのである。
まさに世界記憶遺産の名にふさわしい。
7月27日(月)
出張先での業務が意外と早く終わり、飛行機の搭乗まで時間があったので、少し足をのばして、世界遺産を見に行くことにした。
鉄道に乗ること1時間半、「近代産業の町」に到着した。
とにかく暑い。
駅前の博物館を見たあと、いよいよ世界遺産を見に行くことにする。
場所がわからないので博物館の受付の人に聞いてみた。
「ここから、世界遺産の建物までどのくらいですか?」
「この暑いのに、歩くんですか?」
「ええ。他に手段がないでしょう?」
「たしかに。歩くと15分くらいかかりますよ」
「わかりました」
教えられたとおり、炎天下を、横断歩道を上ったり下りたりして、ようやく世界遺産の建物の場所に着いた。
だが驚いた。
世界遺産の建物に、まったく近づけないのである!
目の前には、鉄道の引き込み線が立ちはだかっていて、メインの建物は、鉄柵のはるか向こうにわずかに見えるのみである。
ボランティアの人がいたので聞いてみた。
「あのう、この引き込み線は、現役ですか?」
「ええ、いまでも貨車で鉄製品を運んだりしています。この引き込み線があるために、あの世界遺産の建物には近づけないんです」
「なるほど」
たしかに、現役で稼働している工場なので、仕方がないといえば仕方がない。
「しかしこれでは、せっかく世界遺産になっても、ちょっと残念ですねえ」
「そうですねえ。いまは登録されたばかりでこんな状態ですが、もう少し時間がたてば、事態は改善されるかも知れません」
「そうですか」
「こんな暑い中、せっかく来ていただいても、近くで見られなくてすみません」
「いえいえ」
また炎天下の暑い中を、15分かけて最寄りの駅まで戻った。もちろん汗だくである。
鉄道で1時間半ほどかけて、空港に向かった。
世界遺産について、いろいろ考えさせられたが、この時期、炎天下の中を歩くもんじゃない。
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コメント
いつもならすぐ居場所当てクイズの答えをコメントするのに、まだ書かないんですか、明智先生。
ああ、例の講座の期末レポートが3本も溜まってそれどころじゃないんだ。かわりに小林君、今回の犯人からの挑戦状を読んで、ヒントになる言葉を挙げてみたまえ。
そうですね、まずF市から鉄道で1時間半の距離にあること、駅前の博物館に寄ったこと、世界遺産であること、今でも鉄製品を貨車で運んでいるので建物に近づけないこと、でも解説ボランティアがいて会話したこと。
よろしい。「駅前博物館」などめったにないから、推理の裏を取る際に大いに使える。ボランティアが相手しているということは、観覧エリアのようなものが敷地の外にあって、たぶん現場写真はそこで撮ったものだ。もう、分かっただろう。
いいえ、携帯で地図を探して見ても肝心の最寄駅が、わからないんですが。
犯人は明らかに我々をミス・リーディングしようとしているから、もっともなことだ。土地勘がないと分からないだろうが、この駅を出て真っ先に目につくのは近代遺産でなく、ついこの前まで最先端だった現代、否、未来遺産なのだ。それを一切書こうとしていないから、別の駅と勘違いするのだ。
それは盲点でした。
それに、犯罪の再構成には動機の解明が大事だ。犯人は計画的にその場所を訪れようとしていたわけじゃない。仕事が早く切りあがって時間ができたので、偶発的に犯行に及んだのだ。
とすれば、専門家ならではのマニアックな場所というより、誰でも思いつくような超メジャーな産業遺産が、真っ先に犯人の頭に思いついたはずだ。
しかも帰りの飛行機の時間が決まっているとしたら...
近場で済まそうとしますね、先生。飛行機に乗り遅れないように。
そうだ、飛行機に乗り遅れてアリバイを崩されては元も子もない。
でも、その世界遺産は全国に散らばっていて、F市の周辺にも数多くあります。
帰る時間が迫っているのであれば、知らない土地よりは、一度訪れた土地勘のある場所へ行くものではないかね。認知心理学的に考えて、アクセシビリティが高いのだから。
とすれば隣県などには行かず、既に訪れたことのある、あの記念館の街に行った、と。
どうやら小林君には、犯人の行った場所が分かったようだ。よい子の読者のみなさんはお分かりかな。
投稿: 明智こぶ郎 | 2015年7月29日 (水) 01時57分
久しぶりだね。明智こぶ郎君。
キミの推理は相変わらず見事だよ。ひょっとしてキミはここを訪れたことがあるのかな?
ほんとうのことを言えば、世界遺産を訪れることが目的ではなかった。「駅前博物館」を訪れることが本来の目的だったのだ。たまたまそこに世界遺産の建物があることを知り、足をのばしたまでのことだ。
ではまた会おう!
怪人鬼十面相
投稿: onigawaragonzou | 2015年7月30日 (木) 00時32分