社会を変えるには
7月2日(木)
親しい友人とは政治と宗教の話はしない、と決めているが、最近はそうも言ってられない。
「いまの政治は最悪だねえ」
久しぶりに会ったひょんさんとも、そんな話になる。
3年ほど前に、講談社現代新書から、小熊英二『社会を変えるには』(2012年)が出た。
小熊英二の著作を注目している私は、当然買って読んだわけだが、…というより、かなり話題になった新書なので、多くの人が読んだものと思われる。
小熊英二の著作は分厚いことで有名だが、この新書もまた分厚い。ふつうの新書の4倍くらいの量はある。
この本の「おわりに」を読んで驚いた。
「二〇〇九年の夏に大きな著作を書きあげたあと、その年の九月に意識不明になって入院し、以後一年ほど療養生活をしていました。医者に全快を告げられたのは二〇一一年の四月でした」
なんとこの人、大部な著作を書きあげたことが原因で、その直後に意識不明になり1年間の療養生活を強いられたらしい。
世の同業者に問う。ぶっ倒れて意識がなくなるほど根をつめて原稿を書いているか?
それだけでもすごいのだが、「おわりに」はさらに続く。
「療養のあいだ、あたかも外国からもどってきたかのように、しばらくぶりに日本社会の動きをいろいろと感じとってみると、五~六年前とはだいぶ変わっていることがわかりました。せっかく拾った命なのだから、復帰できたらこんどはこの変化を研究してみたい、と考えました」
それでこの新書が書かれたわけだが、今回もまた、おいおい、そんなに根をつめたらまた倒れるぞ!といわんばかりの大作である。
分厚い新書なのだが、主張はいたってシンプルである。それは、
「社会を変えるためには、デモが重要な役割を果たすのだ」
という一点である。
3年ほど前にこの本を読んだ時、
(デモが社会を変えるなんてことは、ないと思うんだがなあ)
と思っていた。変えるんだったら選挙だろう、と。
しかし、である。
選挙による民主主義が、必ずしも多数の意見を反映しているわけではないことが、ここ最近の選挙で実感されつつある(少なくとも私には)。もちろんそれは、現行の選挙制度の欠陥によるところが大きい。
つまり現状では、選挙は必ずしも民意を反映するものではないのだ。
となれば、何によって、民意を反映させたらよいのか?
小熊英二が予言したとおり、デモなんじゃないか?と、3年たった今、ようやく気づいた。
小熊は述べる。
「みんなが共通して抱いている、『自分はないがしろにされている』という感覚を足場に、動きをおこす。そこから対話と参加をうながし、社会構造を変え、『われわれ』を作る動きにつなげていくこと」
これが、デモにより社会を変える、ということである。
報道ではほとんど報じられていないが、いま、各地で政府の安全保障政策に反対するデモが広がっている。
この本を片手にデモに参加すれば、さらに意を強くすることができるのではないかと思う。
あと、個人的にこの本を読んでなるほどと思ったのは、デモとは直接関係ない部分だが、フッサールの現象学についての説明である。
「『私のことは私がいちばんよく知っている』とは言えません。相手から指摘されて初めてわかることもあります。しかし、けんかの相手から指摘されても、それは誤解だ、あるいは一面的だと感じます。では第三者ならわかるかといえば、それもあてになりません。
そもそも『私』というものも、日々変化しています。相手と仲良くしているときと、けんかをしているときでは、自分でも『自分はこんな人間だったのかな』と認識を新たにすることがあります。
それでは、こう考えたらどうでしょうか。最初から『私』や『あなた』があるのではなくて、まず関係がある。仲良くしているときは、『すばらしいあなた』と『すばらしい私』が、この世に現象します。仲が悪くなると、『悪逆非道なあなた』と『被害者の私』が、『私』から見たこの世に現象する。これを、『ほんとうは悪逆非道なあなたのことを、私は誤認していた』と考えるのではなく、そのときそのときの関係が両端に、『私』と『あなた』が現象しているのだ、と考える。
つまり、関係のなかで『私』も『あなた』も事後的に構成されてくる、と考えるわけです。関係の中で作られてくるわけですから、どちらが正しいということは言えません。(中略)関係は変化しますから、『私』も『あなた』も変化します。おたがいが、作り作られているのです」
いいかい、自分が他人からどう思われているかを常に気にしているキミ。
「ほんとうの私」「固有の私」なんてものは、存在しないんだぜ。
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