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タクシーの運転手と客の会話・韓国編

8月27日(木)

ただいま韓国出張中。

この話の面白さが、どれほど伝わるのかは、まったく自信がない。というか、クドいばかりで、さほど面白い話ではない。

今回の出張では、何人かのメンバーと一緒に行動し、韓国語が少しわかる私は、いちおう今回の旅の引率係である。

午後、S大学への訪問を終え、次の目的地である、サムソン美術館に向かうことにした。

ソウル市の郊外にあるS大学は、やや交通が不便だが、さすが、韓国第一の大学だけあって、構内が広い。

対するサムソン美術館は、ソウル市の中心部に近いところにある私立の博物館である。サムソン、というのは、韓国の有名な財閥で、その財閥は、豊富な資金力を背景に韓国内の優品を収集したことで知られる。所蔵する美術品は、どれも超一級品である。

S大学の構内を走る空車のタクシーを見つけたので、乗ることにした。

運転手は、ちょっと恐そうな顔をしたオジサンである。

助手席に私が乗り、後部座席に他のメンバーが乗った。後部座席のメンバーは、韓国語がわからない。

以下、タクシーの運転手と私の会話。

「サムソン美術館までお願いします」

「え?どこ?」

「サムソン美術館です」

「サムソン美術館?知らんなあ」

「有名な美術館ですよ」

「わからない」

とりあえず、タクシーが走り出した。料金メーターは倒さないままである。

「どこだって?」

「サムソン美術館です」

「サムソン?」

「ええ」

「サムソン会長の家なら知ってるぞ。そこなら行けるぞ」

「それは関係ありませんよ」

「ごめん、俺、やっぱりわからないわ。とりあえずタクシーがつかまる場所まで乗せてってやるから、他のタクシーをあたってくれよ。なんなら、俺が他のタクシーをつかまえてやってもいいからさあ」

「カーナビで調べればいいじゃないですか」私はカーナビのほうを指さした。

「このカーナビ、故障しているんだ」

たしかに、カーナビは作動していなかった。

やがて、数百メートルほど走ったところで、広い通りに出た。

「ここならタクシーが頻繁に通るから、ここで他のタクシーをつかまえなよ」

タクシーが止まった。

もちろん、ここまでの会話はすべて韓国語である。

私は後部座席をふりかえり、今度は日本語で、後部座席のメンバーたちに言った。

「とりあえずここで降りてください」

全員が降りたあと、タクシーはそのまま走り去っていった。

さあ、頭の中に「?」が浮かんだのは、後部座席のメンバーたちである。

事情もわからず、乗ったと思ったらいきなりタクシーを降ろされたからである。

「一体どうしたんです?」

後部座席にいたNさんが、心配そうに私に聞いた。

私が、かくかくしかじかと、運転手と交わした会話を説明した。

「なあんだ、そういうことだったんですか」

Nさんによれば、韓国語で会話をしていた内容がわからなかったため、次のようなことを想像していたというのである。

Nさんの目の前、つまり運転手と助手席の私との間でくり広げられていたのは、次のような光景であった。

1,恐そうな顔をした運転手が、料金メーターを倒さずに、走り出した。

2,運転手と私が、なにやら口論を始めた。

3.私が、料金メーターのほうを指さして、何か言った。

4.運転手が何かを私に言ったあと、私が後部座席のはみんなに向かって「とりあえずここで降りてください」と言った。

この現象から、Nさんは、次のような想像をしたのである。

運転手が料金メーターを倒さずに走り出したため、私が「料金メーターを倒してくれ」と運転手に言ったのだが、運転手は頑として聞かない。

私がそれでもなお、料金メーターを指さしながら、料金メーターを倒すようにと言ったのだが、それでも運転手はメーターを倒さない。

運転手に何かを言われ、ぼったくられると思った私は、交渉が決裂したと判断し、後部座席にいるメンバーに「降りてください」と言った。

…しかし、事実は逆である。

メーターを倒さなかったのは、タクシーの運転手が親切にも、他のタクシーが頻繁に通る道路まで、タダで乗せてくれたためであった。

私が指さしたのは、料金メーターではなく、そのすぐ上に付いているカーナビであった。

事情がわからない後部座席のNさんは、てっきり悪い運転手にぼったくられると思ったのだという。

…というお話。

なかなか伝わりにくい話で、しかもさほど面白くない話なのだが、海外でタクシーに乗ると、その運転手さんがいい人なのかそうでないのか、見極めが難しい、ということが言いたかっただけである。

この運転手の場合、自分は道がわからないからと、他のタクシーがつかまりやすい場所までタダで乗せてくれた点では「いい人」なのだが、そもそも「サムソン美術館まで行けない」といって乗車拒否をしたことを考えると、手放しで「いい人」とはいえないのである。

はたしてこの運転手は、いい人なのか?悪い人なのか?

ナンダカヨクワカラナイ。

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コメント

サムソン会長宅って、サムソン美術館と同じ梨泰院(イデウォン)洞にあるらしいので、タクシーの運ちゃんが言っていることは、あながち間違っていないようで。

http://m.sportsseoul.jp/economy/read.php?sa_idx=8649

ま、李会長は他に2軒ほど自宅をお持ちのようですので、どの家に連れていかれたかは、わかりませんが。

投稿: 公示価こぶぎ | 2015年8月28日 (金) 10時20分

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