野火・補足
塚本晋也監督の映画「野火」(2015年公開)を見て唯一気になったのは、セリフ回しである。
兵士の使う言葉が現代的な言い回しになっていることが多く、そこが気になった。
「野火」を見る直前に、映画「人間の條件」を見て、セリフの中に太平洋戦争中の軍隊の言葉をさんざん聞いていた私は、なおさら「野火」の中の兵士のセリフ回しに、違和感を覚えたのである。
たとえば、リリー・フランキー演ずる安田という兵士は、映画の中で
「全然大丈夫だ」
という言い回しをしている。
これは、太平洋戦争中の兵士が使う言葉では絶対にあり得ない。
唯一そこが、映画の中に入り込めなかったところである。
軍隊における特徴的な言い回しについて、脚本を書いた塚本監督は、チェックを受けなったのだろうか?
そんなはずはないだろう。
むしろ、あえて現代の言い回しを使ったのではないだろうか。
よくよく考えてみると、この映画の中で、70年前の太平洋戦争を舞台にしているとはひと言も言っていない。もちろん、原作は太平洋戦争の時のレイテ島を舞台にしているし、映画でもレイテ島を舞台にしているのだが、映画ではそのことをひと言も言っていないのである。
そこをわざと曖昧にしたのは、映画の中の出来事を、過去のこととしてとらえるのではなく、現在にも起こりうることを示そうとしたからではないか。
つまり、あえて現代の言い回しを使うことによって、現代の私たちにとって身近な問題であることを示そうとしたのである。
もっともこれは、私の妄想仮説であり、正しいかどうかはわからない。
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