裏窓
窓からは、大通りの並木道が見えた。
疲れると、窓からその大通りを眺めた。
お昼休みになると、多くの人たちが昼食場所を求めて、大通りを行き交う。
窓の外を眺めていると、ある一団が建物から出てきた。
その一団は、仲のいいグループらしく、ほぼ毎日、一緒に昼食に出かけることがわかった。
あるときは、建物を出て左に。
あるときは、建物を出て右に。
そのうち、ある傾向がわかってきた。
月曜日は、建物を出て左に曲がる。
その方向にしばらく歩いて行くと、おそば屋さんがある。
火曜日も、建物を出て左に曲がる。
水曜日は、建物を出て右に曲がり、さらに左に曲がる。
その方向にしばらく歩いて行くと、洋食屋さんがある。
木曜日は、私が忙しいので、窓の外を見る暇がない。
金曜日は、ふだんは数名いるはずの一団が、2名ないし3名に減る。近くの建物の2階にある、小さな食堂に行くようだ。
決まっているわけではないが、だいたいそんな傾向である。
おそらく、おそば屋さんや洋食屋さんの定休日と関係があるのだろう。
そんなパターンをつかんできた私は、やがて、曜日が来ると、彼らが何を食べに行くのかを想像するようになった。
(今日は月曜日だから、左に曲がるだろう。鍋焼きうどんかな?)
そう予想して窓の外を見ると、案の定、一団は左に曲がる。
(今日は火曜日だから、右に曲がり、さらに左に曲がるだろう。日替わりランチかな?)
そう予想すると、一団は予想通りの動きを見せる。
面白いように、想像したとおりになる。
そんな風にして、まるで競馬の予想のように、一団の動きを予想しては楽しんだ。
その日の昼食の話題まで想像した。噂好きの一団だろうから、人の噂話で盛り上がっているのだろう、などと。
しかし、曜日や季節によっては、一団が全部揃わない日もある。
(あれ?今日は2人だけだな。他の人はどうしたんだろう?)
そのうち、とくに2人だけになる機会の多い人がいたりして、一団の中で、誰と誰が親密度が高いか、といったこともあらかた把握できた。
ほとんど私とは接点のない一団だったが、その一団の人間関係や行動パターンを、ほぼ完全にとらえることができたのである。
だからといって、何の役に立ったというわけでもない。
単なる私の息抜きだったのだ。
今でもその一団は、同じ行動パターンを繰り返していることだろう。
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