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苦手なもの

苦手なもの、というのは人により違っていて、聞いてみないとわからない。

たとえば、居酒屋などで「直箸(じかばし)」が苦手だ、という人がいる。

直箸がイヤだという人に話を聞いてみると、自己防衛のために、料理が来たら自分が率先して取り分けることにしている、という。

同じ人は、「居酒屋で出てきた唐揚げの大皿に、ことわりもなくレモンを搾りかける行為がイヤだ」とも言っていた。

よく、居酒屋で唐揚げが出てくると、レモンが付いていて、みんなの意志に関係なく、唐揚げの大皿にレモンをまんべんなく搾りかけたりする人がいるでしょう?

あれが苦手だというのである。

仮に、それが苦手な人をAさん、レモンをまんべんなく搾りかけたがる人をBさんとしよう。

唐揚げが運ばれてくるやいなや、Bさんはレモンを搾りかける気満々。

それを察知したAさんが、いち早く唐揚げを自分の取り皿にとって避難させる。

Bさんは、すかさずレモンを持って、「かけますね~」と、唐揚げの大皿にまんべんなく搾りかけ始める。予想通りの展開である。

Aさんが、間一髪セーフと思ったのもつかの間、次の瞬間、驚くべきことが起こる。

唐揚げの大皿にレモンをまんべんなく搾りかけた後、こんどはあらかじめ自分の取り皿に移していたAさんの唐揚げにも、「かけるね~」と言ってBさんはレモンを搾りかけたのである!

これですっかり、Aさんは食べる気をなくしたのだという。

Bさんにしてみたら、よかれと思ってしている行為なのだろうが、世の中には、「自分の意志に反して唐揚げにレモンを搾りかけられること」をイヤだと思っている人がいる。

だから「他人には思いもかけず苦手なものがあるものだ」ということに、自戒を込めて注意しなくてはならない。

たとえば、「カエル」が苦手だ、という人がいる。

両生類のカエルが苦手だ、という人はよくいるのだが、その人は、生きているカエルはもちろん、カエルの意匠(デザイン)全般が苦手だ、というのである。

「どんなかわいいカエルのデザインでもですか?」

「ええ、そうです。とにかく、ちょっとでもカエルだとわかると、いやなんです」

「たとえば、かわいいカエル柄の小物なんてプレゼントされたりしたら…?」

「コイツ喧嘩売ってんのか、って思っちゃいます」

あらかじめそういう苦手なものを知っていないと、ちょっとしたトラブルに発展する恐れがあるので、注意した方がよい。

かくいう私は、というと…、

実は干しぶどうが苦手である。

大人になって克服し、今ではだいぶ食べられるようになったのだが、子どもの頃は大の苦手だった。

妻は干しぶどうが大好きなので、「なぜこんな美味しいものが苦手なのか、サッパリわからん」という。だが苦手なものというのは、えてしてそういうものなのだ。

職場なんかで、干しぶどうのいっぱい入った洋菓子なんかをお裾分けされたりすることがあり、お裾分けされるというご好意自体は嬉しいだけに、ちょっと複雑な心境になる。もちろん、今はだいぶ食べられるようになったので、ありがたくいただくのだが。

苦手なものというのは、かくも人により異なるのである。

「万人が好きに違いない」と思うものこそ、極度に苦手だという人が、いるかもしれない。

たとえば、パンダはどうだ?

私は、パンダをかわいいと思う。だが、「万人がかわいいと思うに違いない」と思っても、ひょとしたら「恐い」と思っている人がいるかもしれない。

そのことに、思いを致さなければならない。

…ということで、パンダの写真をここに載せるか載せまいか、迷ったあげく、この写真を載せることにする。

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