一期一会の研修会
11月19日(木)
身辺雑記を書こうとすると、「自慢話」か「愚痴」のどちらかしかないことに気づいたので、読者が不快にならないように、最近は身辺雑記を書かないようにしていたのだが、今日は仕方がない。
今週は、全国各地から集まった60名ほどの専門職の方々が、うちの職場で研修を受けるという、年に1度の「研修週間」である。
私も、木曜日の午後、2時間半ほど、30名を対象にした研修会の講師をすることになった。
(冗談じゃない!研修を受けたいのはこっちの方だ!)
何しろ研修を受けに来る人の多くは、私よりも経験豊富な人たちなのだ。年齢も、私と同じくらいの人もいれば、大学を卒業して間もないという人もいたりして、年齢層は幅広い。
そんな方たちの前で、まだこの仕事が2年目である私は何をすればいいというのだろう?
割り切って、自分が面白いと思うことを話すことにした。
ただたんに座学だけではつまらないから、ちょっとクイズ形式を入れてみたりする。
とっつくにくいシロモノを、とっつきやすくすることが、私の得意とするところである。
なので、わざととっつきにくいシロモノを選んで、それをサカナにあーだこーだやることにした。
…ま、やってることは、「前の職場」で学生たちの前で話していたことと、ほぼ同じである。
久しぶりに30人ほどの方たちの前で授業っぽいことをしてみたが、やっぱり授業を組み立てるって、面白いなあ。
私は14年ほど教壇に立っていたが、年々自分の授業に自信が持てなくなり、
(そろそろ潮時かな…)
と思って、昨年の3月をもって、教壇に立つことをやめてしまった。
今もなお、再び教壇に立ちたいとは思っていないのだが、しかし、今日久しぶりにやってみて、少し決心がぐらついた。
14年ほど教壇に立って、いくつか自分なりに心がけていたことがあった。
1.1年に1つずつ、「テッパン」(誰が聞いても、何度聞いても面白いという意味)のネタをつくる。10年続ければ、10の「テッパンネタ」ができるから、たいていの場合それで何とかなる。
2.自分が面白いと思ったことだけを話す。
3.聞き手の立場に寄り添い、聞き手が共感できるような話をする。
4.すぐに結論を言わない。聞き手に考える時間を与える。
今回も、1~4の心がけ通りにおこなったつもりである。今回は2時間半の一期一会。自分が面白いと思う「テッパンネタ」だけを厳選して授業を組み立てた。
休憩時間に、20代とおぼしき、参加者の一人の女性が、私に近寄ってきた。
「あのう…、私、こういう者です」
名刺を受け取った。初対面の方である。その人が続けた。
「Tさんって、ご存じですか?」
久しぶりに聞く名前である。
「Tさん!知ってるも何も、私が指導教員だった学生ですよ」
Tさんは、数年前に卒業した教え子だった。このブログにも、何度か登場したことがある。卒業以来、会っていない。
「私、以前Tさんと同じ職場にいたんです。今は私、職場が変わってしまいましたけど」
「Tさんも専門職に就いているんですね」
「そうです」
私は卒業後のTさんの動向についてまったく知らなかったので、とても驚いた。世間はなんと狭いことか!
「私が先生の授業を受けることをTさんに言ったら、ぜひよろしくと伝えてくれと、名刺を預かってきました。これ、Tさんの名刺です」
Tさんの名刺を受け取る。Tさんは地元で、大学のときの専門分野を活かした専門職に就いていたのだった。
名刺に書かれているTさんの職場は、まだ行ったことがなかったが、一度訪れてみたいところだった。
今度遊びに行くことにしよう。
さて、2時間半の授業が終わり、受講生が次々と研修会場をあとにする。
一人また、20代とおぼしき女性が近づいてきた。
「あのう…、私、こういう者です」
名刺を受け取った。初対面の方である。その人が続けた。
「私、先生の専門とは少し違う分野を大学で勉強したんですけど、大学時代にこの授業を受けていたら、先生と同じ分野に進もうと思ったと思います」
「そうですか」
「今日はありがとうございました。機会があったら、ここからずいぶん遠いですけれど、うちの職場にもぜひおいでください」
「たしかに遠いところですね。でもいつか必ずうかがいます」
30人受講して、そのうちの1人からもらった感想である。
私はかつて、
「私の授業を100人が聞いたとして、そのうちの3人の心を動かすことができれば、その授業は大成功である」
という法則を自分で作ったことがある。
その法則からしたら、今日の授業は、成功したというべきだろう。
しかし私は同時に知っている。
そういう授業は、世間的にはほとんど顧みられることがないことを。
久しぶりに、「前の職場」にいたときの感覚に戻った気がした。
…だからといって、再び教壇に立とうとは思わないが。
| 固定リンク
« 小沢栄太郎と加藤嘉 | トップページ | 御神体の村 »
「職場の出来事」カテゴリの記事
- まだ月曜日かよ!(2023.01.24)
- ○○の玉手箱(2023.01.18)
- 何でも言って!(2023.01.14)
- 100字原稿マシーン(2023.01.05)
- シャレオツなメディアキャラバン(2022.12.21)
コメント