予約席の客
11月10日(火)
この町で仕事をするとき、仕事場から少し歩いた小さなカフェでいつも昼食をとる。
仕事場の周りには食堂がなく、唯一あるのが、その小さなカフェなのである。
4人掛けのテーブルが3つほどあるだけの狭いお店で、女性店主が一人で切り盛りしている。ほかに男性店員が一人いるが、家族だろうか。小さいが、こじゃれたお店である。
私と同僚と、一緒に仕事をしている職人さんの3~4人で、お昼になるといつもその店に行く。
いつも同じ場所のテーブルに座る。
メニューは決まって、カレーである。
さて、仕事初日の月曜日。
いつものように、3人でお昼にそのお店に行くと、めずらしいことに、お客さんがけっこう入っていた。
だが、いつも私たちが座るテーブルだけが、空いていた。
見ると、「予約席」と書いた札が置いてある。
「あ、ここ、予約席ですか?」
「いえ、どうぞどうぞ」
そう言うと、店主は「予約席」と書いた札を取り去った。
で、いつものようにそのテーブルに座り、カレーを注文した。
翌日。
同じようにお昼にそのカフェに行く。
やはり、私たちがいつも座るテーブルに「予約席」という札が置いてあった。
「あ、予約席…」
「いえ、どうぞどうぞ」
店主は、私たちが来ると、「予約席」の札をまたも取り去ったのである。
で、いつものようにカレーを注文した。
食べ終わり、店を出てから、疑問に思った私は先輩の同僚に言った。
「二日とも、テーブルに『予約席』の札が置いてありましたけど、あれ、何なんでしょうね」
「さあ。誰かあの店を予約していたのかなあ」
「わざわざ予約をして行くほどの店ではありませんよ」
「それもそうだね」
「それに、私たちがあのテーブルで食べている間、それらしいお客さんは来ませんでしたしね」
「そうだねえ」
「ひょっとして、『予約席』って、我々のためにテーブルをとっておいてくれたんじゃないですか?」
「まさか…。だって我々がこちらに来る日程を、あの店主が知っているはずがないよ」
「そうですよね」
たしかにおかしい。
私たちが仕事でこの町に来るのは、1年に3回。4月と8月と11月である。
だが、細かな日程は、先方とのスケジュール調整によって決まるのである。
しかも各回とも、仕事をするのは、ほんの数日間に過ぎない。
私たちは、特段、店主と親しいわけでもない。ほとんど会話を交わすこともない。
そもそも私たちは、店主や店員に対して、自分たちの素性を明かしていないのである。
お店の人にとってみたら、「4月と8月と11月の数日間、なんとなくあらわれる客」に過ぎないのだ。決して常連客などというものではない。
そんな、素性がわからない、いつ来るかわからない連中のために、
「ああ、あの人たちがそろそろ来る時期だわ」
といって、「予約席」の札をテーブルに置くだろうか?
まず、あり得ないことである。
では、いったいあの「予約席」の札は、誰のための札だったのだろうか?
謎である。
そのとき私の頭をよぎったのは、シティーボーズの「洋食屋さん」というコントだったのだが、ま、それはわかる人がわかればよろしい。
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コメント
洋食屋さん
http://yossy-m.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-8abb.html
投稿: ぬれこぶぎ | 2015年11月13日 (金) 02時57分