嵐のようなあいつ2015
12月29日(火)
このブログではほとんど準レギュラーになっているが、高校時代の吹奏楽部のサックスパートは8人。
元福岡のコバヤシ、私。
一学年下にいたのが、アサカワ、エーシマ、オオキ、モリカワさん。
さらにその一学年下にいたのが、サカクラさん、ジロー。
むかしはこの8人が、いつもつるんでいた。だが最近は、8人全員が揃うことは、めったにない。
例によってモリカワさんが音頭をとって、年末に集まろうということになった。
ふだんは忙しいエーシマも、今回は北関東から帰省していて参加できるという返事をもらったので、
久々に8人全員が揃うのか??
と期待したのだが、直前になって、いちばん時間をもてあましていそうなフーテンのアサカワが、
「ダンスのレッスンが入ったので参加できない」
と連絡してきた。
なんだよ?ダンスのレッスンって。四十代も後半になってあいつ、何をめざそうとしているのか?謎である。
ということで、7人が東京駅近くの居酒屋に集まることになった。
久しぶりに会った「嵐のようなあいつ」ことエーシマは、相変わらずテンションが高い。来るなり、まくし立てるように喋り始めた。
エーシマは高校時代から、日本のある3人組のバンドの熱烈なファンである。
30年経ったいまも、そのバンドの追っかけをしている。
その3人組のバンドも、ついに還暦を超えてしまったのである。
毎年、「年中行事」のように彼らのコンサートに行くという。さらには地方公演にまで足を伸ばす。
「この前は、山形の酒田というところまで、北関東の町から片道5時間かけて、車でコンサートに行ってきました。しかも翌日は朝から仕事だったんで、日帰りですよ」
「ひとりで行ったの?」
「ええ。一緒に行く『変わりもん』なんていないですもん」
「じゃあひとりで運転を?」
「そうです。死ぬ思いでした」
「そこまでして行くなんて、もはやそれは行(ぎょう)だね」
「その通りですよ」
エーシマはまた、BJという、アメリカのロックバンドの熱烈なファンでもある。コンサートのために、世界中を飛び回る。
「先日は、シンガポールに30時間だけ滞在して、BJのコンサートに行ってきました」
BJが日本に公演に来たときも、当然追っかけをするのだが、まるで探偵のようにあの手この手を使って、BJの移動経路を推定したりする。
「追っかけも体力勝負ですからね。ふだんはジムに通って足腰を鍛えています」
彼女の情熱は、すべてそこに注ぎ込まれる。
「あんまり細かいことはブログに書かないでくださいよ」
と言われたのでこの程度にとどめるが、探偵さながらのエーシマの「追っかけ術」は、実に抱腹絶倒だった。
「持っている」のは、エーシマだけではない。
ジャズミュージシャンのジローもまた、いろいろなエピソードを持っている。
「この前、僕のバンドのライブに、F施明さんが来たんです」
「F施明って、あの有名な歌手の?」
「そうです。なんでも、『面白いバンドがあるから一度聴きに行ったらいいよ』と知り合いに勧められて、聴きに来たそうなんです」
「すごいねえ。ジローのバンドも」
「その日、たまたまうちの親父も聴きに来ていて、親父に『今日はF施明さんが聴きに来てくれているんだ』と言ったら、親父の顔色が変わって、『なに?F施が来ている??ちょっと呼んできなさい』と言うんです」
「ほう」
「なんだかよくわからなかったんですが、とりあえず僕がF施さんのところに行って、『なんか、うちの父が呼んでいるみたいです』と言って、親父に会わせると、親父は『おい!F施!!』と、F施さんに向かって言ったんです」
「…どういうこと?」
「うちの親父、中学校の体育の教師をしていたんですが、F施さんは、うちの親父の教え子だったんです!!!」
「えええぇぇぇ???」
「うちの親父は、怖い先生だったことで有名で、F施さんは、親父の『おい!F施!!』という声を聴いて、中学校のときの先生だということを瞬時に思い出したんだそうです」
「つまり、約半世紀ぶりに二人は再会したってわけ?」
「そうです」
すごい話だ。のちに日本を代表する歌手として名を馳せることになる中学校時代の教え子と、自分の息子のバンドのライブで偶然、半世紀ぶりに再会するのだから。
厳格だったジローの父は、ジローがミュージシャンとして身を立てることにはじめは必ずしも賛成していたわけではなかったと聞いている。だがそれから20年以上が経ち、ジローは父に何よりのプレゼントをしたのではなかったかと、私には思えてならない。
「おまえ、いまの話、絶対ブログに書くだろう?」とコバヤシ。
「まさか…書くわけがないじゃないか」私は反論した。
「書くに決まってるさ」
そんなこんなで、あっという間に時間が経った。
駅で別れ際、エーシマが私に言った。
「みんな頑張ってるみたいで、なんか安心しました」
励まされたのは私のほうだよ、と言いかけて、照れくさいのでやめた。
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