1月11日(月)~12日(火)
日記を更新できなかったのは、韓国滞在中、ずっと体調が最悪だったからである。
咳が止まらず、夜になると微熱が出るという状態が続いた。
ひどい倦怠感にさいなまれるのだ。
何か重篤な病の前兆のような気がするが、まあ考えないことにしよう。
とにかく1日も休むわけにはいかないのだ。
1月11日(月)
朝8時30分、D市のホテルのロビーで、Fさんと待ち合わせる。
今回の出張は、P郡の会社の現場事務所があるI市を拠点に仕事をするのだが、P郡の会社の親会社がD市にあり、午前中はその親会社を訪問して社長にご挨拶することになっていた。
Fさんは、親会社の社員である。初めてお会いした方だが、豪放磊落といった感じの女性だった。
車中でいきなり早口の韓国語で話しかけられるので、応対するのも必死である。
「あのう」会社に向かう車中で私はFさんに聞いた。「社長様に手土産を持ってきたんですが…」
「社長は、そういうのが嫌いなんです。ですので渡さない方がいいと思いますよ」
「そうですか。ではP郡の子会社のほうはどうでしょうか」
「あちらの社長には渡しても問題ないと思います」
「わかりました」
ほんと、手土産って難しい。
さて社長へのご挨拶も無事に終わり、親会社を引き上げ、今度は私がお世話になるI市の現場事務所まで、Fさんが車で送ってくれる予定になっていた。
「あのう、ごめんなさい」とFさん。
「何でしょう?」
「私が車でI市までお送りすることになっていたんですけれど、実は明日、うちの会社で大きな行事があるんです」
「はあ」
「で、その準備担当が私なんです」
「そうですか」
「いま私、そちらの準備で忙しくて精神がないんです。申し訳ないんですが、鉄道で移動してもらえますか?」
「わかりました」
よくあることなので、全然驚かない。私は、韓国人の「精神がない」状態を、これまで何度となく見てきているのだ。
「最終日の金曜日は、また私がご案内しますので、そのときに会いましょう」
「わかりました」
だが、結局金曜日に会うことはなかった。
このことが、後に重大な事態を引き起こすことになる。
さて、鉄道で移動してI駅に着くと、今回の出張の案内役であるJさんが待っていた。I市の現場事務所の責任者である。私より年下の好青年、といった感じの人である。
このJさんがとてもいい人で、結局私はこの旅の最後まで、Jさんのお世話になりっぱなしだった。
I市の現場事務所には6,7人のスタッフがいて、みんないい人ばかりだった。
「鬼瓦さんは韓国料理では何が好きですか?」
「サムギョプサルです」
昼間のこんな何気ない会話を、Jさんは覚えていて、夕食はサムギョプサルの店に連れて行ってもらい、現場事務所のスタッフたちと日本のドラマやら韓国のドラマの話で盛り上がった。
そこそこ楽しかったのだが、やはり会食というのは気疲れしてしまう。とくに体調の悪いときはなおさらである。
ホテルにチェックインして部屋に入ったとたん、咳が止まらなくなり、微熱があるようだったので、すぐに寝ることにした。
1月12日(火)
2日目の午前。
P郡にある会社の社長と副社長が現場視察にやってくるそうで、Jさんをはじめとする現場事務所のスタッフたちは朝からその準備に追われ、「精神がない」状態である。
やがて社長と副社長がやってきて、そのうえ地元の大学の教授やら、I市の課長や係長までやってきて、現場視察が行われた。
なぜか私もその現場視察について行くことになり、お昼はその方たちと会食である。
韓国では、まったく知らない人たちの会食に参加させられることがよくあるので、まあ慣れているといえば慣れている。こういうときは、流れに身をまかせるのがいちばんなのである。
午後、一通り仕事が終わったあと、Jさんが言った。
「今日、Iさんが部下たちを連れてこちらに来るそうです」
「Iさんですか!」
ソウルに住むIさんは私の昔からの友人で、私より少し年下なのだが、私よりもはるかに高い地位にいる人である。
風の噂で、また一つ偉くなったと聞いていた。
「今日、Iさんがぜひ鬼瓦さんと会食したいそうです」
「わかりました」
Iさんに言われたら断れない。
ということで、2日目も会食である。Iさんが引き連れてきた数人の部下たちは、私のまったく知らない人たちで、またもや知らない人たちと食事をしなければならない。
食事のとき、Iさんが言った。
「そうだ!金曜日の午後3時からと、土曜日の午後1時半からソウルで同業者祭りがあります。あなたの知り合いもたくさん来ますから、金曜日はソウルに来なさい」
「でも金曜日はD市に泊まることになっています」と私。
「そんなの変更しなさい」とIさん。
私の案内役であるJさんも、
「変更できるかどうか、確認してみます」
という。
でも私としては、体調が悪い中、わざわざ予定を変更してソウルに行くのはしんどくてたまらないのだ。
困ったなあ。なんとか断る方法はないものか。
あとでJさんに、
「やっぱり体調が悪いし、重い荷物を持ってソウルの町を移動するのがしんどいので、金曜日は予定通りD市に泊まりたいです。なんとかそういう形で話を進めてもらえませんか?」
と言うと、Jさんは、
「わかりました」
と言ってくれたのだが、そう簡単に物事が進まないのが韓国である。
はたして私はどうなるのか?(続く)
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