期せずしてプレゼント
1月9日(土)
朝、韓国へ向けて出発する。
仕事は月曜日の朝からなのだが、語学学校でお世話になったナム先生から、「来月に出産予定で、その前に韓国に来る機会はありませんか?」と連絡が来たので、1日早く韓国に出発することにしたのだった。
夕方、町に到着し、ナム先生夫妻と食事をしながら、最近のお話を聞く。
「チェ先生、覚えているでしょう?」
「ええ、私が4級のときの文法の先生です」
チェ先生はたしか私の妹と同い年で、まだ独身だった。
「いま、中国にいらっしゃるんですよ」
「中国ですか?何でまた?」
「中国の大学で、韓国語を教えているそうです」
意外だった。チェ先生は、中国語がまったくわからなかったはずだからだ。
「中国語を勉強されていたんですか?チェ先生は」
「それが、あるとき突然、うちの大学の語学院の中国語の基礎クラスの授業を受け始めたんです」
語学の先生が語学院で教えつつ、その語学院で他の言語の授業を受けるというのは、よくある話ではあった。
「3カ月だけ中国語の基礎を勉強して、それで突然中国に渡ったんです」
「どうしてまた?」
「さあそれが私たちにもわからないんです。それまで行ったことのない国にいきなり行って韓国語を教えるなんて、「テダナダ」(韓国語で「すごい」の意味)って周りのみんなで言ってたんですけど…。しかも中国のあまり聞いたことのない地方都市だそうです」
「何か、心境の変化でもあったんですかね」
「そうですね。みんなで「何か心境の変化でもあったんじゃないか」って噂してたんですが…詳しいことはよくわかりません」
人生とは本当にわからない。
「そういえば、あの二人はどうなりました?中国人の男子学生と、ロシア人の女子学生が、つきあっていたっていう話」私は話題を変えた。
2年ほど前にナム先生から聞いた話で、語学院に留学した中国人の男子学生とロシア人の女子学生が、まだ二人とも韓国に来たばかりで意思疎通ができないにもかかわらず、つきあい始めたというのである。
「ああ、あの二人ですね。別れました」
「別れたんですか!」
「中国人の男子学生は、その後韓国の大学に入学したんですよ。で、ロシア人の女子学生は、…学生といっても、年齢は男子学生よりも年上で、韓国の大学に入学するのが目的ではなく、韓国語を勉強したいから留学したのだそうで、韓国語を学び終わると、韓国の大学には入学せずに、ロシアに戻ったんです」
「なるほど」
「ところがあるとき、帰国したそのロシア人の女子学生から、語学院のある先生のもとにメールが来たんです」
「ほう」
「『妊娠しました、どうしましょう』って」
「えええぇぇぇ!!!」
どういうことだ?
「中国人の男子学生と別れたあと、ロシアに戻ってから、妊娠したことが発覚したそうなんです。でも、相手の中国人学生は、『知らぬ存ぜぬ』の一点張りだったそうです。私たちも、学生の個人的な問題だから、立ち入ることができないでしょう。その後どうなったのかは、よくわかりません」
衝撃の展開に、言葉を失った。
ほんと、人生いろいろである。
途中でナム先生の姉夫婦も合流した。
ヒョンブ(ナム先生の姉の夫、つまり義理の兄)は、最近転職したそうで、いまはエレベーターの技術者として、技術を勉強しながら仕事をしているという。そのため、土曜日も夕方まで仕事をしなければならないという忙しさなのだそうだ。
ヒョンブは、なぜかこの私のことを、ひどく慕っている。
本の扉を開けると、メッセージが手書きで書かれていた。
「キョスニム!
僕がいちばん大好きな作家の本です。
この作家のように、文章が書けるようになりたいです。
韓国語を勉強しがてら読んでみてください。
ますますの健康を祈念します。
尊敬の気持ちを込めて」
誕生日のことなんて一言も言っていないのに、期せずして誕生日プレゼントをもらったような気分である。というか今年唯一の誕生日プレゼントだ。
「キョスニム、今度は夏に来てください。サムギョプサル食べながら、焼酎飲みましょう」
それにしてもヒョンブはなぜ私を慕うのか?今もって謎である。
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