「孤独のグルメ」派か「酒場放浪記」派か
年末年始は、テレビをよく見た。
「孤独のグルメ」というドラマが面白い、と妹に勧められて、ちょうど元旦にまとめて再放送されていたので、数話分を見てみたのだが、これがすこぶる面白かった。
松重豊扮する「井之頭五郎」という中年営業マンが、出張先の町で、長考の末、美味しそうな飲食店に入り、「一人飯」を食べる、というだけのドラマである。彼が訪れる店は、実在するお店で、料理も、その店が実際に出しているメニューである。つまり、登場人物や設定は架空だが、飲食店じたいは実在するのだ。
中年のオッサンがひたすら食事をするというシーンが、ドラマの大半を占める。なのでストーリーらしきストーリーは全くない。中年のオッサンが料理を美味しそうにモリモリと食べるだけのドラマなのにもかかわらず、なぜこんなに面白いのか?
ちょうど同じ頃、やはり年末ということで「酒場放浪記」という番組が地上波で放送されていた。吉田類という中年の文化人風の人が、各地の酒場に一人でふらりと立ち寄ってレポートをする、という番組で、大人に人気の長寿番組らしい。以前、ある人に勧められたことがあったので、この機会に見てみることにしたのだが、これがすこぶるつまらない、というか、私のツボではなかったのである。少しだけ見て、見るのをやめてしまった。
「孤独のグルメ」も「酒場放浪記」も、ドラマとドキュメンタリーという違いはあれ、中年のオッサンが見知らぬ町の見知らぬ飲食店に飛び込んで料理に舌鼓を打つ、という共通したコンセプトの番組のように思えるのだが、なぜ前者は面白く、後者はつまらないと私は感じたのだろうか。
両者には、いくつもの大きな違いがあることに気づいた。
一つは、主人公の「ストーリーテラーぶり」の違いである。
「孤独のグルメ」は、そのほとんどが主人公・井之頭五郎の「脳内のつぶやき」がセリフとなっているのだが、このセリフが表現といい、タイミングといい、秀逸なのである。もちろん、これはドラマなので台本があるわけだが、この台本が、実に周到に練られたものになっているのだ。
これに対して、「酒場放浪記」の吉田類の喋りは、下手である。行き当たりばったり感が強い。何年もこの番組を続けているのならば、もう少し喋りが上手くなってもよさそうなものであるが、残念ながらそうはなっていないようだ。
つまり、いかに素材がよかったとしても、それを表現する側のクオリティによって、素材は活かされたり活かされなかったりすることを知るのである。
二つ目は、店員や客とのコミュニケーションのとり方の違いである。
「孤独のグルメ」のほうは、そのほとんどのセリフが主人公の脳内妄想によるものであり、店員との会話は最小限にとどめている。ましてやほかの客とコミュニケーションをとろうなどとは、まったく思っていない。
それだからこそ、独自の世界観ができあがるのである。
それに対して「酒場放浪記」のほうは、吉田類がやたらと店主や周りの客とコミュニケーションをとろうとする。それが私にとっては愉快に思えない。
こうなると好みの問題になってしまうのだが、私の場合、たとえば一人で飲み屋に入ったとしても、店主や周りの客と必要以上のコミュニケーションをとるのが大嫌いである。なので「酒場放浪記」のような「一人飲み」のスタイルは敬遠してしまうのだろう。むしろ、「孤独のグルメ」のような、周りから隔絶した一人の世界の中で料理を楽しむというスタイルのほうが、安心するのである。
三つ目は、「お酒」に対する取り扱いの違いである。
「孤独のグルメ」の主人公・井之頭五郎はお酒が飲めない。これが功を奏している。これによって、いろいろな料理にチャレンジできるのだ。
これに対して「酒場放浪記」は、どうしてもお酒が主体となるので、「お酒に合う料理」という縛りがかかってしまうように思える。これがどうにも残念である。
可能性の広がりという点でいえば、お酒の要素を排除した方が食事の可能性の幅が広がるような気がする。
考えてみれば、私が一人で出張に行くときは、「酒場放浪記」派ではなく、「孤独のグルメ」派である。
初めて訪れた町を歩きながら、さあ今日はどこで食事をしようか、と通りを行きつ戻りつしながら探しまわり、長考の末にここだと思う飲食店に入り、メニューを開いてはまた長考し、これだと思う料理を注文して、それを黙って食う。
やってることは、井之頭五郎そのものなのだ。
だから吉田類よりも井の頭五郎に共感するのかも知れない。
うーむ。こんなことにこだわる私のほうがおかしいのか?
どなたか「酒場放浪記」の楽しみ方を教えてください。
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コメント
こんにちは。宜しくお願いします。以前、私は酒派で、今は呑まなくなったので、言わば両方分かりますが、吉田某の前に太田某と言うライターが酒場巡りの本を書いていましたが、良い印象は持てなかった。その後もマッキー某と言うグルメライターがいましたが、これも読みたくはなかった。ラズウェル某もそう。
やはり、グルメ&酒は難しい領域なんですよ。押し付けがましいかどうかも、あまり関係ないような気がします。
吉田某の場合は、本人とスタッフと出版社が、吉田氏に人間的な魅力があると勘違いしていると思います。
投稿: Log | 2021年5月 3日 (月) 19時39分