出世する人
体調が悪いので、悪いことしか思い浮かばない。
昔の知り合いから、思い出したようにメールが来ることがある。
昔の仲間と食事会をしませんかというお誘いなのだが、僕自身、その人たちを仲間であると認識したことはなく、何より平日の昼間に都内でランチなどというのは、こちとら仕事が忙しくどだい無理な話であるので、メールが来るたびにお断りしていた。
そのメールには、近況のようなものが書かれていて、「○○さんが○○長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」などと、独特の言い回しで他人様の出世の噂話を嬉々として書いているのだが、他人様の人事にまったく関心のない僕にとっては、どうでもいい話である。
それよりもいつもそのメールで違和感を抱いていたのは、メールの最後についている「署名」というやつである。
職場のメールアドレスで送ってきているので、職場での所属や肩書きを書いているのは別にかまわないのだが、その下に、ある任意団体の「○○長」である旨の署名が記載されていた。
その任意団体というのは、権力や権威に対して理論武装をして抗おうという団体で、いちおう僕も名前だけは加入していた。
僕は権力や権威が大嫌いで、そういったものには常に疑いの目でのぞまなければならないと思っている人間なので、そうしたことについても関心があるわけなのだが、かといって僕は、その人と一緒に活動したいかというと、そんなことは全然なかった。なんとなく、その人に対して違和感を抱いていたからである。
そしてその違和感の理由が、メールの「署名」に書かれている「○○長」という肩書きだったことに、いまになって気づいたのである。
その任意団体をとりまとめる○○長という仕事は、たしかに大変な仕事で、ほとんど引き受け手のないその仕事を厭うことなく引き受けていることじたいはすごいと思うのだが、メールの署名に自分から「○○長」と名乗る感覚が、僕にはわからなかった。僕の心がねじ曲がっているのかも知れないが、「○○長」であることを誇示しているかのように、僕には思えて仕方がなかったのである。
反権力・反権威を高らかに唱える任意団体の幹部が、「○○長」であることにご満悦であるのは、矛盾しているのではないか?もっといえば、その人は実は権威主義者なのではないだろうか、と。
そう思う根拠は、ないわけではないのだが、ここでは省略する。とにかく、いままでのその人の言動を見ていると、なんとなく権威主義が見え隠れするのである。反権威とか反権力とかいうのは、単なるポーズなのではないか、とまで疑いたくなるのである。
だが、そんなことを考える僕の心がねじ曲がっているのではないか、という不安は、常につきまとっていた。なにしろ、○○長などという誰もやりたがらない面倒な仕事を厭うことなく引き受けていること自体、誠実な人柄なのではないか?そして人に対してそつなくふるまい、きっと重宝されているに違いないのである。
その人とむかし一緒に仕事をしたという人に、聞いてみたことがある。
「あの人のことですか。一緒に仕事しましたけど、僕、嫌いでしたよ」
と、その人ははっきりと僕に言った。その理由ははっきりとは教えてくれなかったが、話の様子から、やはり「無邪気な権威主義者」であることを言動から察知したからなのだろうと、僕は推測した。その人と一緒に仕事をしたという人もまた権威が大嫌いであることを、僕は知っていたからである。
だいたい、その人と話をするときの話題のほとんどは、「他人様の出世」だとか、「他人様の人事異動」といった、僕には何の興味もない話題ばかりだったのだ。人事について僕に探りを入れてくるようなこともあったが、僕は知らんぷりをした。
いったい、何でそんなに他人様の噂話に関心があるのだろう?と疑問で仕方なかったが、ハタと気がついた。そうやって人より早く情報を掌握することが、他の人よりも優位に立てることを意味するのである。
「○○さん、○○長になったんですよ」
「へえ、そうだったんですか」
「あ、知りませんでした?」
「はぁ」
こんなくだらない会話を何度繰り返したことか。
しかしそれこそが、この世の中で出世するための方法なのだ。
僕にとってはどうでもいいことなのだが。
きっとその食事会とやらでも、
「○○さんが○○長になられるとを聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
などと、そんな話題に終始しているのだろう。そしてこまめに食事会を設定することじたいも、出世する人間の条件なのだろうな。
…うーむ。いかに体調が悪いとはいえ、話題が暗すぎる。
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コメント
吹雪の夜。
小洒落たカフェで携帯画面を見ながら、二人の男は頭を悩ませていた。
「○○長」の部分にどんな言葉を入れたら、この記事が面白くなるのだろうか。
「秋が夜長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
「年号が慶長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
「目尻が切れ長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
「清原さんが番長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
「本居さんが宣長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
「清水さんが次郎長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
「家康さんが信長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
「オニガワラさんが恋の応援団長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
吹雪の夜。
吹きだまり自転車部長は、どれがお気に召すのだろうか。
投稿: 八百長こぶぎ | 2016年2月 9日 (火) 22時43分
「清原さんが番長になられると聞いて、いささか感慨深く思っているところです」
が、いちばん好きですね。
投稿: onigawaragonzou | 2016年2月13日 (土) 01時13分
報告。
・試乗コースは屋外で、一周820m。自転車を何台も借りて、何周もすると、そこそこ疲れる。
・マイヘルメット持参で行くと、ヘルメットの空きを待たずに、すぐ試乗車を借りられる。
・試乗したい場合は、入場時に、申し込み書を書いて、リストバンドをつけてもらうこと。身分証を持参すること。
・トレックやスペシャライズドなど人気ブランドの自転車は、お昼前から試乗の行列ができるので、人が少ない朝一番に行って乗るのが吉。
・試乗車にはクロスバイクがなく、スポーツバイクは、ほぼロードバイクか小径車のみ。ロードバイクに乗れる人はよいが、ロードバイクに乗ったことのないお友達は、コーダブルームのブースでロードバイクの初心者講習を受けるとよい。
・試乗コースではハンドサインを使おう。コーダブルームの上の講習で教えてもらえる
・ヤマハの電動ロードバイクYPJ-Rは試乗エリアにあるので、そのまま行くとよい。
・電動ロードバイクは、安いクロスバイク並に重かったが、漕ぎ出しが軽いのは電動アシスト車っぽい。
・仰向けに寝て乗る「リカンベント」が試乗用に貸し出されているが、場内から試乗コースに運ぶのが面倒そうだ。
・輪行講座はためになる。
・ヒキタサイクルは生で見ると、結構こわもて。
・安田団長が転倒事故から命を救ってくれた、血染めのヘルメットを持参。
・スペシャライズドのブースでは、ビンディングシューズも貸してもらえるので、クリート着脱を初体験。
・けやき広場の食堂街が工事中で閉鎖されているので、お弁当を持参して、ステージを見ながら食べると、時間が有効に使える。
・アルミでも、やっぱりアンカーは軽いねえ。
・トレックもいい。コンポがアルテグラだもの。
・トンプソンもよかった。
・フ雪でも乗れるファットバイクは、ぶっとい車輪でスピードが出ない。
・試乗のしすぎは結構疲れるので、ほどほどに。
投稿: エキスポこぶぎ | 2016年2月14日 (日) 00時41分
このコメント欄の内容が数年後、「本格的なサイクルエキスポ攻略法」とかなんとかいって、自身のブログに掲載されるんだろうな、と予想してみる。
投稿: onigawaragonzou | 2016年2月15日 (月) 00時56分