性格
以前、ある専門誌から、
「あなたがおすすめの新書を何冊かあげて、それに関するコメントを書いてください」
という依頼が来た。
ただし、そこには条件がついていて、
1.ここ5年間のあいだに出された、専門分野にかかわるおすすめの新書。
2.専門分野にかかわらず、自身がこれまで読んで最も印象的だった新書。
という2種類の新書についてそれぞれあげて、コメントを書けという。
どうもその専門誌の新年号恒例の「企画」のようで、数多くの同業者に、アンケート形式で答えさせて、それを専門誌に載せるということらしい。
いつも思うのだが、そういうときに迷いなく、自分のおすすめの本について紹介できる人って、尊敬してしまう。
自分にはとてもできない。
1の「ここ3年のあいだに出された、専門分野にかかわるおすすめの新書」って、要は同業者の新書を褒めろってハナシでしょう。
性格の悪い私には、他の同業者を利するような紹介文など、決して書きたくはないのだ。
もうひとつの、「自身がこれまで読んで最も印象的だった新書」。これならば、書けそうだ。
私がこれまで読んで最も感銘を受けた新書は、心理学者・宮城音弥の『性格』(岩波新書)である。
そしてたぶん、私が最初に読んだ新書が、これだった気がする。中学のときだった。
自意識過剰が炸裂していた中学のとき、自分の性格を分析しようと思って買ったのだと思う。いずれにしても、私の人格形成に大きな影響を与えた新書なのだ。
この本はいまでも、私にとっては性格分析の指針となっている本である。たぶんいまとなっては、学説的に問題があるのかも知れないけれど。
しかし、これはあくまで自分の人格形成に影響を与えた新書であって、これを人に薦められるかというと、ハナシは別である。
しかも、いまの私の専門とは、まったく違う分野の新書なのだ。たぶんそんな新書は、求められていないだろう。
ということで、専門誌からの依頼を、丁重にお断りすることにした。
年が明けて、専門誌が送られてくると、新年号の企画として、「おすすめの新書」について、数十名の同業者たちのアンケート結果が載せられていた。
何のてらいもなく書けてしまうって、ほんと、尊敬してしまう。
2の「専門分野にかかわらず、自身がこれまで読んで最も印象的だった新書」のほうを見ると、そうはいってもどこかしら、自身の専門分野にかかわる新書を紹介している。さすが、みなさん専門誌の意図を理解して書いていらっしゃる。
私が、自分の専門とはまったく関係のない宮城音弥『性格』を紹介していたら、きっとバカにされただろう。
依頼を断って、本当によかった。
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